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高校生編
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しおりを挟む県北の町の民間施設にて千鶴は3泊4日の缶詰合宿を戦い抜き…無事帰還すると荷解きもせぬままに完成した新居へと荷物を運び込む。
予定より数日早く引き渡し日が前倒しになったようで、文雄と美恵子はひと足先に搬入を始めて、いつでも暮らせるように手筈を整えていた。
「刈田家にお世話になったお礼と完成披露パーティーは改めてするとして…とりあえず寝られるようにしないとね」
「うん…あ、ベッドが新しい」
「買い替えたのよ。千鶴のも運んであるの、見て、お父さんが選んだのよ、可愛いでしょ」
「わ…お姫様みたい」
文雄が娘にとチョイスしたのは屋根付きの天蓋ベッド、千鶴はそこまで少女趣味でもないのだが和風の刈田家に慣れてしまったために大層物珍しく輝いて見える。
ころんと横になれば真新しいベッドカバーは清潔で無臭で、合宿所のリネンもこんな感じだったかと昨夜のことを思い出してしまう。
そして素足で滑らかな表面をなぞれば、ふと4日前のあの薄っぺらい敷布団の感触も蘇り…渉は何をしているだろうかと気になった。
簡単に夕食を摂り新しい風呂場を満喫したこの夜、22時を過ぎたというのに花山家の固定電話に着信が入る。
美恵子が出てみるとそれは由恵からで、「渉が帰って来ないのだが知らないか」という内容だった。
携帯電話に掛けても出ないしメールも返ってこない、遊ぶ場所など無い田舎でここまで遅いと事故や犯罪の可能性もあるか…電話の向こうの由恵はそう心配して落ち着かない様子だったという。
美恵子がその電話を受けている時にちょうど千鶴は風呂上がりで、母からそのことを聞くと慌ててパジャマで表へと飛び出した。
「(渉くん…変なことに巻き込まれたり…してないよね…)」
彼が連んでいるのがどんな輩かは知らないが、触発された彼が体の関係を簡単に迫ったりするのだから清い者達ではないのだろう。
もしや彼が言っていたようにナンパで童貞を捨てて爛れたパーティーでもしていたら…?千鶴は少しフィクション性の強いタイプの展開を想像しつつ区画をぐるりと周って刈田家の方向へ、事務所の建物はいつもならとうに消灯しているのにまだ明かりが点いている。
千鶴が恐る恐る中を覗くと、渉の父・剛が筋肉質な腕を組んで社長イスへ座っていた。
ドアをコンコンと叩き、
「…おじさん、こんばんは、」
と千鶴が声を掛ける。
「っ…ちーちゃんか、こんばんは…うちのが知らせたんか、ったく…身内の恥を広めやがって…」
「おじさん、こっちで待ってるの?」
「ああ…こっちの方が視界が広いけぇ…」
剛は手持ち無沙汰でその辺の書類などぺらぺらめくったりしつつ、息子の醜態を恥ずかしそうにごまかしていた。
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