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高校生編
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しおりを挟む高校最初の夏休み。
盆明けの昼間、3泊4日の学習合宿を前に千鶴は荷造りに追われていて、やれ辞書だノートだと旅行用のボストンバッグへ詰め込んでいた。
やれやれなんとか片付いたとバッグを玄関脇に置いて部屋代わりの納戸へ戻ったら、コンコンとノック音がして渉が覗く。
「チィ、ちょっとええか」
「なに、勝手に…どうしたの?」
戸を閉めた狭い空間に渉はずいずい入ってきて、真ん中にどしっと胡座をかいて頬杖をついた。
「…のう、チィ」
「なに…」
「…チィ、お前さぁ、エッチ…したことあるか?」
小箱のような狭い密室に男女二人、暗くて古びた繊維の匂いが立ち込めるこの納戸でそんなことを尋ねられ、千鶴は衝撃と恐怖で少し後ずさる。
「な、な…無いよ、何言ってんの…」
「うん…じゃろうな、そんな暇無かったもんな」
「……何…」
「チィ、」
嫌な予感、言わないで、体が動かなくて逃げるスペースも無く進路が塞がれている。
千鶴は呼吸が荒くなってでもそれを悟られたくなくて抑えながら息を吐いた。
「ワシとエッチしてみんか」
「は、ああ⁉︎」
「静かにせぇ、」
「ば、馬鹿じゃん、何言ってんの、馬鹿、」
ここまで荒れているとは思わなかった、そんな軽い喫茶感覚で体を、初体験を委ねてしまえる人間がどこに居るというのか。
しかしそれを提案されているということはそんな軽い女だと思われているということか、千鶴は屈辱と怒りで顔を赤くする。
「…高校生にもなったらや、そういう経験もしとかんと…カッコ付かんじゃろ」
「カッコ…のために…するの…?」
「…じゃけ、チィの初めても一緒に卒業すりゃ…一石二鳥じゃろ」
「馬鹿なの、そんな…」
それは名誉なことなの?便利なことなの?私のことも考えてくれてのことなの?でもそれで私が喜ぶとでも思ってるの…?数年育んできた愛情ゲージが一気に目減りしてそれどころかマイナスにまで下がっていく、千鶴はこうなってくるとぐらぐらと怒りが増してきた。
「渉くん、言わなかったけど、高校デビューが乱暴だよ。わざと悪くなろうとしてない?」
「んなことねぇわ」
「西高の友達も言ってた、渉くんは先輩たちと連み出して変わっちゃったって…何か影響されてるんでしょ、それでそんなこと…」
渉は3年生の先輩に見初められてグループに誘われるようになり、法に触れる悪さこそしないものの授業をサボったり見た目を崩したりと明らかに影響を受けているらしい。
入学時に買い与えられた携帯電話も彼らからの着信・メール履歴で溢れていて、呼ばれれば授業を抜けて体育館裏などで駄弁りに行ったりするのだという。
成人向けの雑誌を提供しているのも彼らで、一緒にいると周りの目が変わってきて、それは「不良に関わりたくない」という忌避の意思だったりもするのだが彼らはそれを畏怖だと信じてデカい顔をしている。
周囲から遠巻きにされてもそこに優越感を得てしまう反抗期、体制に対する反体制、とかく学生時代にありがちな『粋がった若者』に渉は片足を踏み込んでいた。
「先輩がさ、ナンパ行こう言うて誘ってくれるんじゃけど断りよるんよ。これから彼女ができてもドーテイで恥ずかしい思いしとうないが、でもフーゾクなんかワシら入れんじゃろ、ちょうど…ええかな思うて」
「…馬鹿、絶交ものだよ、分かってんの?」
「だめか、…もうちょっとしたらチィの家が完成するじゃろ、そしたらもうこんな機会無いけぇ…いけんか…ほんなら…別で探すわ…」
「…!」
馬鹿な渉、自分に選ばれて一緒に初めてを卒業することが本当に親切で名誉だと思っていたのね…あまりのことに千鶴は目眩がして、後ろの窓ガラスに頭をカツンと打ち付ける。
「おい、大丈夫か、」
「それはこっちのセリフだよ…渉くん…」
「いや、ワシのことが嫌いなら仕方ないわ」
「っ…嫌いじゃない、嫌いじゃないよ…」
12歳からこれまで甘酸っぱいこともありながら過ごしてきた幼馴染み、好きか嫌いかと聞かれればそれは当然前者なのである。
日常的にそばに居るから当たり前になっていて、決定的な何かが無いから何も起こらなくて。
でも何かが起これば…幼馴染みからカップルへ、簡単にクラスチェンジできていたはずなのだ。
「わ、渉くんは…私のこと…好き?」
「そらぁ好きよ、じゃなきゃこんなこと言わんわ」
「違う、この先もずっと…け、結婚とかしても良いって…思える『好き』?」
初めての体を捧げるのだ、それくらい尋ねる権利はあるだろう…しかし渉は
「……重っ…」
と呟いて顔を逸らし嗤った。
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