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中学生編
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しおりを挟むそれから予定通り文雄は引っ越して行き、千鶴は父の赴任先を訪ねる日程を組んだ。
なるべく安くあげようということで、早起きして最寄駅から在来線で2時間のプランで西を目指すことにする。
「眠いのう」
「着いたら起こすからさ、寝てていいよ」
「あぁ…」
「…渉くん、緊張してる?」
「しと…る、人が多い電車は恐い」
「はぐれないでね」
「分からん」
通勤・通学客の少ない土曜の車内は空いていて、難なく二人掛けのシートに着席できた。
規則的に心地良く揺れる車内で渉は悠々と二度寝をし、
「(重いなぁ…)」
千鶴は肩にもたれてくる彼の頭がずり落ちないように腕を固定して、2時間後に到着する頃にはガチガチに凝り固まってしまい…その親切を後悔する。
「ふぁ……よう寝た…なんかええ夢見たぞ…チィは?」
「なーんにも」
「あっそう…ん、海じゃ」
島育ちの渉は街に潮風の香りが混じると途端に元気になり、フェリー乗り場までさくさく歩き始める。
この先は世界遺産を有する神の島、二人は観光客の列に紛れてフェリーへ乗り、島へ降り立てばその雰囲気に圧倒された。
「大鳥居すごかったのう。釣りしたい」
「…いかにも観光地、って感じ…来たことある?」
「あるらしいけど憶えとらんな…おい、鹿がおるぞ」
「渉くん、お父さん探さなきゃ……あ、いた!」
まだ携帯電話が若年層へ普及していない時代である、千鶴は事前の打ち合わせで決めていた待ち合わせ場所へ渉を押して歩き、無事に父と合流する。
「お父さん、久しぶり」
「いらっしゃい、渉くんも、よく来てくれたね」
「こんちは」
「おいで、お参りして行こう」
二人は文雄に案内されていかにもなルートを観光し、味わい、写真に収めて楽しんだ。
働く研究室も見せてもらい、土産も買い、そろそろというところで文雄が
「母さんに渡すお土産を部屋に忘れてきたんだ、取りに帰るからついておいで」
と言うので本土へ戻り滞在先のアパートへ寄って帰ることにする。
「お邪魔します…うわ、汚い…」
「研究室に泊まったり…寝るために帰ってるだけだからね…待って、どこに置いたっけ…」
「まだ引っ越して10日も経ってないよ…」
「うん、ごめんねぇ、こんな父さんで」
室内の床には書籍と資料とペットボトル、洗ったのか分からない白衣とワイシャツが規則正しく区分けされて散らかっていた。
怠け者というよりは衣食住に無頓着、文雄にとっては未知の海洋生物とか新たな器官の発見とかが何よりの生命維持装置となっているのだ。
そしてこうして訪ねて来てくれた娘も充分に活力源となっていて、美恵子は普段触れ合いの少ない父娘を繋げるためにこの旅を計画したのではないかと…千鶴はそう思わんこともない。
「どんな物探してるの?」
「ネックレス。赤い…小さい紙袋なんだけど…あれ…どこだっけ…真珠が付いててね、美恵ちゃんに似合うと思って買ったんだけどな…んー…」
「!……どこだろ…」
いつも「母さん」と呼ぶ妻のことを「美恵ちゃん」と呼ぶ、千鶴は離れた地でふと気が緩み男を見せてしまった父にモヤァと心が騒つく。
父は「父」という生物であって母も同様で、そりゃあ2人が愛し合ってるのは当然だろうが男女の空気を持ち出されると子供としては妙な嫌悪感が湧き上がった。
「もう………ん?」
千鶴はベッドの下でも探そうかと腰を屈めて、マットレスの下からはみ出ていた布を引いて、しばしフリーズしてしまう。
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