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小学生編
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しおりを挟むまだ制服も数日しか見ていない彼女の私服はTシャツにジーンズと思ったよりボーイッシュというか飾り気が無くて、でもロールアップした裾から見える足首が細くて白くて、渉はなぜか何度もチラ見してしまう。
「(もっと、スカートとか穿いとるんかと思った)」
「お待たせ、まず集会所、教えて?」
「ん、こっち…ここな、抜け道に使う車が多いけぇ気を付けろよ、結構スピード出しよるけぇ」
細い生活道にすいすいと自転車を走らせて、渉は地区の端にある子供会で使う古い集会所へと案内した。
「ここな、次は多分秋祭りじゃろうな。神輿でこの辺周って…菓子とか貰える。あとクリスマス会な、それもここでする」
「うん、分かった」
「あとこの上な、遺跡があって…自転車じゃとキツいけど…行くか?」
メインの用事は済んだがすぐに帰っては母に叱られるに違いない、渉が一応提案すると
「うん…行く」
と千鶴は汗を手首で拭って誘いに乗る。
彼女としても、渉をこのまま帰しては悪いのだろうと悟り気を遣ってのことだった。
「ん、じゃあ…こっから…登るで、」
自動車でも「うっ」と重力で体がシートに貼り付けられる傾斜の坂道を、渉は立ち漕ぎで登って行く。
空き地が多く宅地開発がされると聞いているがまだ買い手が見つからないようでほとんどが草っ原、この先の遺跡も文化財指定されているというのにそこまでの経路は舗装も剥がれたガタガタの道である。
もっと人口が増えれば市が道路整備もしてくれるだろうか、両親がそんなことを話しているのを渉は耳にしたことがあった。
「ふぅ、ふぅ、」
慣れているとはいえ凸凹の坂道は男でも辛い。
ましてや初めて通る女では…と考えが及んで渉は地面に足をつき、はたと振り返る。
「……おーい、大丈夫か、」
「う、ん、」
だいぶん下の方から千鶴は自転車を降りて押して上がって来ていて、不安定な足元にサンダルの踵が引っかかりストラップに付いたチャームが揺れて光り目を引いた。
千鶴は渉に追い付くと汗だくの顔で
「ごめんね」
と笑い、彼は気まずそうに自転車のハンドブレーキを離す。
「すまんかった…ワシら慣れとるけぇ…」
「ううん、ごめんね、追いつけなくて…私、押して行くから、先に上がってていいよ」
「お前を案内するのにワシだけ上がってどうすんじゃ…ええわ、ワシも押して行く」
「ん…ありがとう」
「……」
なんだ礼も言えるんじゃないか、もう一度謝られたら怒ろうと思っていた渉は千鶴の作り笑顔にどぎまぎと視線を泳がせた。
「(気まずい…話題も無い…)」
カラカラと車輪が道の砂利を巻き込んで音を鳴らして、二人は黙って坂を登って行く。
千鶴は普通に立つと渉より背が高くて、それなのにサンダルで更に上乗せしているのが彼にとっては癪だった。
気まずさを感じていたのは千鶴とて同じこと、
「…刈田くんは…お休みの日は何して遊んでるの?」
と尋ねてみると
「え、あ、えーと…釣りとかゲーム、とか…」
と渉は上擦った声で答える。
「そうなんだ、何系?アクション?」
「いろいろ…RPGとか…」
「ドリームクエストとかファンタジーファイトとか?」
この2作はロールプレイングのシリーズ作品で、まさか千鶴の口からその単語が出ると思っていなかった渉は目をパチクリとさせて彼女を見た。
大人しそうな外見だから、てっきり部屋で刺繍とか押し花とか、お嬢様的な遊びに興じているのだと決め込んでいたのだ。
「うん…まさにそう…」
「いくつ?私は今ドリクエ5をコツコツやってるところ…まだ2章、」
「え、マジか、ワシもよ、3章のボスの前でレベ上げ中なんよ、」
「そっか」
本当は4章まで進めているのだが、控え目に申告して正解だったと千鶴は内心ホッとする。
渉のようなガキ大将タイプの扱いも少しは分かっていて、男子相手にマウントを仕掛けても得する事など何も無いと悟っているのだ。
「…お前、ゲームとかするんじゃな」
「そりゃあするよ、ひとりっ子で友達も居ないんだもん、テレビゲームとかインターネットのチャットゲームもするし…でも一番は読書かな…時間潰すにはちょうどいいから」
この夏は引っ越しをして宿題など貰わなかったし、母が用意した教材を終えて自主勉強に飽きれば他にやる事も無かった。
「…結構喋るんじゃな…オドオドしとって、つまらん奴じゃ思っとったわ、ドリクエしとるんなら仲間じゃな、…あ、これよ、大岩」
頂上に着くと渉は自転車のスタンドを立てて、直径10メートル以上ありそうな巨大な岩を指差す。
岩の周囲には注連縄が巻かれ、木製の小さな祠に御供物と小銭が置かれていた。
大昔からここにあるらしいこの巨石は地元民の信仰の対象になっていて、市の文化財として保護されているのだった。
「わぁ……おっきい…すごい、」
「大きいだけじゃけどな…」
「ううん、すごいよ………んー……これだけ?」
「じゃけぇ、大きい岩があるだけなんじゃ」
「そっか、ふふっ」
大岩にすぐ飽きてしまった二人は次の目的地へ向かうことにする。
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