備後の神の縁結び

小学生編

2

「渉、花山さんって転校生来たじゃろ？」

「うん、同じクラス。母ちゃんなんで知っとん？」

学校が始まって最初の週末の一番暑い時間帯、渉は母・由恵よしえ（32歳）に尋ねられ、テレビゲームのコントローラーを持つ手も止めずに尋ね返す。

「この東側通りの家なんよ、手直ししようたじゃろ」

「あー、ふーん、そぉ、」

「同じ班じゃけ、仲良うしたげてな。お母さんもそこのドラッグストアで働きよるし、この前話したけど気取らんええ人よ」

「はぁ、へぇー…ちょい美月みつき、テレビの前に立つなや、どけて、」

　班というのは町内会をもう少し細かくしたまとまりの事で、この辺りでは宅地のブロックごとに班を分けてあり今年度はこの刈田家が班長を務めている。

　刈田家の斜め裏にあった空き家に夏休みの間にリフォーム業者が入り、借家として仲介され花山一家が住んでいるのだ。

　関わりがあるとすれば子供会だったり資源ごみの当番だったり市の広報をポストインするくらいか。

　いずれにしてもただのクラスメイトに変わりないやと、渉は妹をテレビから引き剥がして新たなダンジョンへ主人公一団を進めた。


「それでな、これから町内会費と子供会会費の徴収に行くんじゃけど、あんたも付いて来て千鶴ちゃんに集会所とか案内してあげて欲しいんよ」
　
「はぁ？ワシが？」

　持ち回りの当番で、刈田家は今年度の子供会会長も兼任している。

　ちなみに「ワシ」は彼の一人称、方言としてのそれはおとぎ話の老人でなくとも一般的に使われることが多かったりするのだ。

「うん、もう約束してしもうたし。ついでにほら、遺跡とか…あっちのパン屋とか、子供らがよう行く所、自転車で見してあげて」

「えぇ…嫌じゃ、話したことないし。女じゃし」

「これから仲良くなるんじゃろ、母ちゃん命令じゃ、じゃないとゲーム没収」

　セーブしていないのに母がゲーム本体の電源スイッチを押そうとするものだから、渉は慌てて

「わ、分かった、待って母ちゃん、セーブしてから、あ、」

と入ったばかりのダンジョンから撤退せざるを得なかった。


・


「ごめんくださーい、あ、どうもぉ、刈田ですー」

　刈田由恵は恰幅かっぷくが良いというか肉付きが良いというか可愛らしい丸顔の愛嬌あるぽっちゃりさんで、

「こんにちはぁ、まだ暑いですねぇ、…あ、娘です」

花山美恵子はほっそりとしたクールビューティータイプである。

　由恵の方が４つほど年下ではあるのだが、地元民かつ商売をしていて顔も広いために新入りを積極的にお世話するよう民生委員から言い使っているのだ。


　玄関の奥の扉から千鶴は静かに顔だけ出して、ペコリと頭を下げてからこちらへ出て来て渉と妹を確認した。

「あ、千鶴ちゃん？まぁべっぴんさんじゃねぇ、背も高いわぁ、これが渉と、この子は妹の美月、今保育園の年中よ。千鶴ちゃん、渉にその辺案内さすけぇ、一緒に回ってき、いろいろ見といた方がええけぇ、行ってらっしゃい」

「は、はい、」

　千鶴は手にキャップを持ち、小上がりに腰掛けて白いストラップサンダルに足を入れる。

　そして

「……刈田くん、ちょっと待ってね、自転車…取って来るから…」

と、世間話を始めた母達の横を抜けて玄関横の軒先に置いてある自転車に鍵を挿した。

「うん…」