備後の神の縁結び

茜琉ぴーたん

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小学生編

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 1997年、広島県のとある島にて。

 9月と言っても汗が滲む二学期初日の登校日。

 教室の黒板の前に立たされた少女はおどおどと肩をすくめ、皆から集まる視線に耐え切れずうつむいていた。


「はい、静かにー、今学期からの転校生を紹介します、富山の小学校から来た花山はなやま千鶴ちづるさんです。はい、自己紹介をどうぞ」

「…花山です、よろしくお願いします…」

 紹介された彼女・千鶴は小学6年生。

 涼しげな二重の目と薄い唇が日本人形の様にすっきりとした美しさで、栗色の髪の毛は三つ編みにして肩の下まで下がっている。

 細くすらりとした脚をハイソックスで隠し、膝下まで制服のジャンパースカートを下げて穿いているのが野暮ったい。

 しかし色白で儚げな美少女、イメージ通りのそのか細い声にクラスメイトは耳を澄ませ、ぽうっと頬を赤らめる男子もいた。
 

「花山さんのお父様は海の研究をなさってて、そこの研究所で働くために引っ越して来られたそうです。皆さん、仲良くしましょうね」

「はーい」

 一昔前の教師というものは割と簡単に児童の親の職業などをベラベラ喋るもので、それをバラされた千鶴は都合が悪かったのか更に肩を小さくして唇を噛み込む。

 確かに担任が指で示した先、ここから橋を何本か渡った島には地元の大学の海洋研究所なるものがある。

 平日には簡易的な水族館として開放してあるので当然その展示物を観に行ったことのある児童も多く、「ふむふむ」と頷く者もいた。


「千鶴ちゃん、よろしくね」

「う、うん…よろしく」

「ちーちゃんって呼んでいい?」

「うん、いいよ…」

「富山ってどんなとこ?寒かった?」

「さ、3ヶ月しか居なかったから…よく分かんないの」


 千鶴の父・文雄ふみお(36歳)は海洋生物学者だ。

 これまでも各地を転々としながら研究をするかたわら大学の講師や客員教授として働いており、いわゆる転勤族なのである。

 変わり者という程でもないのだがマイペースな人で、大学の同級生である妻へプロポーズする際にも「卒業後、僕は各地を転々としながら研究を続けると思います。文字通り僕に付いて来ることができますか」と問うたらしい。

 その父に付いてきた母・美恵子みえこ(35歳)はなかなか合理的な人で、ならばと在学中に様々な資格を取り、地域ごとに塾講師だったり登録販売者だったり保険外交員だったりと何かしらのパートに出ている。


 彼らの娘・千鶴は元々の内向的な性格もあって、短期間での転校を繰り返すうちに人付き合いというものにすっかり嫌気が差してしまっていた。

 良い環境でもすぐに引っ越しが決まったり、あまり馴染めないのに1年近く滞在したり。

 今では友人を作るどころか顔と名前を覚えるのも億劫で…それでももしかしたら定住するかもしれないのでクラスメイトを邪険にはできない。

 これまでにも親身にしてくれる友人は居たが、「手紙書くね」と言われても本当に送ってくれる子などいなかった。

 もしかすると送ってくれたのかもしれないが、転々とする住所のどこかで千鶴の元まで届かずに忘れられていったのだろうと…彼女はそう思っている。

 当たり障りなく、目立たないように、消える時はサッと去りたい、何も残さずに。

 千鶴は僅か小6にして達観していた。





「なんあれ…つまらん、」

休憩時間、女子に囲まれて質問攻めに遭う千鶴を横目で見た同じクラスの刈田かりたわたるは、彼女に「暗い奴、女だし仲良くなれん」と男子らしい感想を呟く。


 渉は地元の土建屋の跡取り息子で、まぁ腕白わんぱくでヤンチャでいたずらっ子で…年相応に活発な男子であった。

 満遍なく焼けた肌に一文字の太い眉、幅の広い二重が印象的な濃い顔立ち。

 足が速い・ドッジボールが強い・顔が良い。

 渉は小学生におけるモテ要素を贅沢に盛り込んだ恵まれた子供で、常に彼の周りには取り巻きが付いて歩いていた。


 ちなみにだがこの島は本土と200メートルほどしか離れていない。

 離島と言うよりはむしろその本土の市街地で働く人たちのベッドタウンのようになっていて、人口も2万5千人少々とまあまあの規模である。

 島から出るには有料の橋を渡るか渡船に乗るかの2択だ。

 それでも島内に買い物施設は揃っているし役所の支所もあるし、自動車学校もあるし造船所なんかで働き口もあるし…大きな病気さえ罹らなければ一生のことがここで済まされるくらいには、何もかもがいい具合に配置されていた。
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