44 / 46
8
44
しおりを挟む「ねェ、それ…いつできるの?」
「もうできるよ。本当…もう、ほら、これ置くだけで完成、モモちゃんが置いてよ!」
10月に私は16歳になったのだが、今源ちゃんが制作しているのはそのプレゼントだそうで…しかしもうひと月以上遅れていた。
私は小さな人形を受け取って、彼の指示通りの位置へと着地させる。
「はい完成!ムラタ皇路本店、小笠原フロア長付き!」
「あ、うん…すごい」
「いやぁ、遅れてごめんね。やっぱり現存の建築物を作るんなら正確にミニチュアにしなきゃ気が済まなくて」
源ちゃんは私の誕生日にこれを贈ろうと考え付いたものの細部を忠実に再現することが難しく、『おかあさん、そちらのムラタの外観を四方からと、間取り図を写真に撮ってもらえませんか』と母宛にメールを送っていた。
その甲斐あってか大きな建物も駐車場も屋根を外したフロアの様子もしっかりと再現できている。
「うん…なんか…うん、ありがとう…部屋に飾るね」
「このフロア長人形も見て、本当の写真を入れ込んでレジンで硬めたんだ、ほら、おかあさんの顔してるでしょ?」
「ん?んー…そう言えば…そう見えるかもォ」
彼は私がコレを喜ぶと思って作ってくれたのだ。
無碍にはできないのでナチュラルなリアクションでほどほどに相手をした。
「(私以外にこんなのあげたら、すぐにフラれちゃうんじゃないかな…)」
「あとね、これも」
そう言って源ちゃんが取り出したのはティッシュで雑に包まれた塊、手のひらに受け取って窺えば彼は
「開けてみて」
と目を細める。
「…なに…わァ!キレイ!」
そこには鮮やかな花弁を数枚のプレートに閉じ込めたバレッタが入っていて、配色バランスといいプレートの重なり方といい、好みにきゅんと刺さってひと目でときめいてしまった。
「良かった」
「え、もしかしてこれも作ったの⁉︎」
「そうだよ、レジンでね。でも難しいね、模倣じゃなくて1から創造するのって」
「…すごォい…上手…かわいい…」
部屋の照明にかざして透かして、その透明感と中に浮く花の細工をまじまじ見つめていると、
「こっちの方が嬉しかった?」
と源ちゃんは真顔で尋ねる。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる