40 / 46
7
40
しおりを挟むでも源ちゃんも初恋ドリームにただ浸っている訳ではなかったようで、
「それはやってみないことには。でもご安心を、成人するまでは清い関係でいますから」
と改めて方針を語った。
「それはご丁寧にどうも」
「でもキスはしてしまいまして、こう…口先だけの事故的なやつなんですが。事後報告ですけどすみません…えへ」
さすがにそこは照れる源ちゃんを見れば私もじわじわと頬が熱く紅くなってきて、
「源ちゃん‼︎やだもォ、ばか!」
「ほんとのことじゃん、包み隠さず伝えなきゃ信用が得られないよ」
と痴話喧嘩が始まると母はぶふと吹き出して笑う。
「あはは♡うん、睦じいのね、わざわざ教えてくれてありがとう♡……源ちゃんのことは信用してるから…成人までって…あなたのその宣言も信じるわよ、いいのね?…我慢できるのね?」
「はい、なるべく密室で二人きりにはなりません。触りたくなっちゃうので」
「あっはっは♡いやァね、正直者……桃、しっかり考えて…自分のことは自分でね、」
長いまつ毛が揺れる優雅なウインク、「自分の体は自分で守ります」と私は両目を閉じて無言で応えた。
「そっかァ……そう…お隣同士で…これ以上ない良縁ね…嬉しいわ、長く続いて欲しい」
「モモちゃんも、お母さんも、おじいさんとおばあさんも大切にします」
「ふふっ……あなたも青臭いのね……でもいいわ、また数年後…あなたが改めて挨拶に来てくれることを願ってるわ」
そう言った母の耳のイヤホンから少し音が漏れたと同時に面持ちが変わって、
「はい、何?………お名前は?………あァ、戻るわ、今カフェだから、待ってて」
と襟元のマイクに声を吹き込む。
「ごめんね、お得意様に呼ばれちゃった。…桃、源ちゃん、ゆっくりして行って、またね♡」
「またね」
「桃、気を付けて帰りなさい、」
「うん、」
ベストを着てトランシーバーを挿し直す母の後ろ姿は凛々しくて、挟んだ髪をスッと引き抜く手の仕草も麗しくて、歩き出して人混みに消えていくまで目が離せない。
「カッコいいね、」
「うん…自慢のお母さんだよ」
「…モモちゃん、混んできたから飲み終わったら出よう」
「うん…またタクシー?」
「歩いてもいいよ、昼ごはん買ってもいいし」
「じゃあ…歩こうか」
レジ横のゴミ箱へカップを捨てて、私達は夏空の下を駅へと歩き始めた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる