33 / 46
6
33
しおりを挟む「明石市まで出てもいいし、神戸とかもいいよね、オシャレなのかな、半日じゃ足りないかな……源ちゃん、聞いてる?」
「うん、聞いてる」
ふにゃふにゃのうどんを啜りつつ、源ちゃんは目線だけこちらへくれて体勢を変えようとはしない。
壁際の物書き用の椅子と反対側の壁に頭側を付けてあるベッドの枕元、同じ室内なのに3メートルくらいは離れている。
私には不便で、立ち上がりベッドへ座ろうとすれば源ちゃんはうどんを咥えたまま手で制止した。
「なに?」
「あっえ、」
「…食べ終わったら見てくれるの?」
「うん、んー……あんまり、近付かないで」
「はァ?なんで、汗臭い?」
私はくんくんと肘の匂いを嗅ぐ。
うどんをゴクンと飲み込んだ源ちゃんは嫌そうに、
「僕は気持ちをモモちゃんに伝えちゃったから。あんまり近付くと恥ずかしいから」
と口をへの字に曲げた。
「………なにそれ、明日も明後日も観光するんだよ?そんなこと言うならなんで初日に言っちゃうの⁉︎」
「言いたかったから言ったんだよ。でも予想以上に恥ずかしい。目的地に歩くのは平気なんだけどね、密室に二人きりだとどうにも恥ずかしいよ」
壁に目線を逃してつゆを飲んで、「ごちそうさま」と彼はポリ袋にカップと割り箸を入れる。
「…源ちゃん…私…どうしたらいいの?何か答えを出さなきゃダメ?」
「出さなくていいよ、一緒に居たくなければ離れればいいし。言ったじゃん、僕が勝手に好きなんだ…これまで通りだよ」
「そうは言うけどォ」
「…迫っても勝てないしね」
おやつの魚肉ソーセージを開けた源ちゃんはもぐもぐ噛みながら流し目で私を見て口の端で笑った。
「…私、そんなに力強くないし」
「違うよ、泣かれたら僕弱いんだ。モモちゃんに嫌がられたら僕が泣いちゃうよ」
「そう」
「でもあんまり近付くと…」
「近付くと?」
「触りたくなっちゃう、だから距離は保ちたい」
ひとつの部屋にベッドがひとつ、そこに若い男女が一組。
何が起こっても不思議は無いこの状況と彼の言葉に私の頭がやっと追いついて、じわじわと頬が熱くなってくる。
「さわ、り、」
「触りたいよ、僕は男だし。モモちゃんのこと好きだし」
「あばば」
「でもまだ早い。モモちゃんのお母さんもおじいちゃんも僕を信用してくれてるからこうして二人で旅行できてるんだ…勢いに負けて信用を失くすようなこと、絶対できないんだ」
そこまで言うと源ちゃんもスマートフォンを開き、
「明日は神戸、明後日は明石とかでどうかな。電車は全部鈍行で。お金は無いけど時間があるんだ、楽しもう」
と歯を見せた。
「…行きたい所、ピックアップするね……源ちゃん、歯にネギ付いてる」
「ありゃ」
「ふふっ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる