私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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「お母さん、元気にしてる?まだ兵庫?」

「うん…この前さらに転勤してね、市内だけど引っ越しもしたんだって、ちょうど昨日………ほら」

「あー…」

 私が見せたのはスマートフォンに入った母からの自撮り写真、引越しが終わったからと送ってくれたものだった。

 母は3年ほど前から兵庫県の皇路オウジ市という所に転勤していて、住宅手当も切れるし交通費も掛かるしと異動先に近いアパートに移ったのだという。

 少し広めの1LDK、私が泊まりに行っても余裕があるようにと決めたそうだ。

「…やっぱ好み?」

「うん…健康そうでいい」

「ふーん…源ちゃんって熟女好きなのね」

「違うよ、モモちゃんのお母さんは熟女じゃない。辞書的には40代後半からって定義してるものもある」

「そういうこと聞いてないから」

 呆れて唇を尖らせる私に、源ちゃんは

「熟女っていうのは…ほら、ああいうのを言うんだよ」

と道路をほうきで掃く女性を指して笑う。


「あ、桃ちゃんおかえり!源も」

「帰りましたァ」

「僕はおまけか」

「桃ちゃん、今日の日替わりのモツ煮、持って行きなよ」

溌剌はつらつとした彼女は源ちゃんの母親で自宅横で営む定食屋『えっちゃん』の女将・新島悦子えつこ、祖父母に次いで第3の母親のような存在である。

「いいの?ありがとう」

「柔らかくできてるからね、自信作」

「ふふ…悦っちゃんのご飯、私好き♡」

奈々ななちゃんには負けるけどね」

 奈々ちゃんとは私の母・小笠原奈々のことだ。

 悦っちゃんとはひと回りも歳が離れているが彼女たちもまた幼馴染みで、昔から家族ぐるみで懇意にしてもらっていた。
 
「そうかな」

「そうよ、ん、入って、詰めてあげるから」

「お邪魔しまーす」

自宅と同じくらい落ち着く場所、私は準備中の店内へ案内され小上がりの座敷に腰掛ける。

 店内はもう出汁だしの香りが充満していて、その家庭的な空気についうっとりと目を閉じた。

 うちは幼い頃から家族でここに通っていて、母が転勤で家を空けてからは同居する祖父母をねぎらって毎日のようにお惣菜を分けてもらっている。


「はい、気を付けてね」

「ありがとう、悦っちゃん…昨日の器、すぐ持ってくるね」

「ううん、午前中におばあちゃんから返してもらってるから大丈夫よ」

「分かった、またね、源ちゃんも、また月曜ね!」

 座敷でそのまま宿題を開いた源ちゃんは私の方をチラリと見て、

「またね」

と返してシャープペンシルを握った手をフリフリと振った。
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