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しおりを挟む入り口近くにあるカフェスペースで私達はジュースを買ってもらい、ベストを脱いで膝に抱えた母と3人でテーブルを囲む。
休憩の前借りというか、「娘が来てて」と伝えると上司が融通してくれたようだった。
「しっかり観光できた?よく焼けたじゃない、歩いたのね」
「うん、神戸も大橋も見たよ。今日は昼を食べてから帰るつもり」
「そう…明日だったら私休みだったのに…残念ね、また改めてゆっくり案内したいわ」
「うん…」
前に張り出した胸をテーブルに置いて、母は私の前髪を摘んで目を細める。
ヒールパンプスの脚を揃えて斜めに立てて、ちびちびジュースを飲む私と目を合わせては小首を傾げて子供扱いした。
「源ちゃんも、桃のお世話してくれてありがとうね、悦っちゃんにもよろしく伝えておいて、」
「ハイ……お母さん、数ヶ月ぶりですけどますますおキレイになられましたね」
昔はタメ口だったのだが、ここ数年の源ちゃんは母へしっかり敬語を使うようになっている。
「え、何よもう…あ、なんか好みのタイプに私を挙げてくれてたんですって?若いのにお世辞が過ぎるわよ」
「いえ、本音です。年々…モモちゃんはお母さんに似てきてて、僕はモモちゃんが好きだから…だからお母さんのお顔もタイプです」
「はァ…え?」
誰に対しての何の告白かしら、母は戸惑ったように彼と私の顔を交互に見た。
「源ちゃん、いきなり何言ってんの……あの…お母さん、わ、私達ね、つ、付き合うことになったの…」
「え、そうなの?え、その報告でわざわざ来たの?」
母は身体を起こし椅子の背に貼り付いて、また私達を交互に見て反応を窺う。
「いえ、告白したのはこの旅行に来てからです。お出かけ着のモモちゃんが可愛くて、僕もらしくなく開放的になっちゃって」
「はァ、」
「それで昨日の夜、モモちゃんも僕のことが好きだと自覚してくれたみたいで、両想いとなりました」
「え?」
「あ、ホテルの部屋は別々に取ってありますから。必要なら予約画面をお見せします」
「……はァ、はァ、」
随分とフレッシュで初々しくて、微笑ましい報告…しかし
「………源ちゃんが桃のこと気に入ってくれてるのは知ってたけど…大丈夫?幼馴染みから恋人のラブな感じになれるの?」
私の普段の様子からは恋愛の空気が見受けられなかったのだろう、母はなあなあにカップルになることを心配しているようだった。
それは言わずもがなのいつもの母の言付け、「なんとなく」や勢いで人生を決めてしまうのは得策ではないからである。
まぁ交際程度で人生が決まるものでもないのだろうが、いかんせん私達は家が隣同士、深い関係になってから万一別れでもしたら両家総出で気まずさと闘わねばならない。
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