私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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 翌日。

 少し腫らした目を擦ってカーテンを開けて、向かいの部屋に見えた源ちゃんと目が合い

「あ」

とお互い声を漏らす。

 昨夜は電話が終わるまで源ちゃんは待ってくれて、通話を切ったら「じゃあね、おやすみ」と私の顔を見ることなく部屋へ下がってしまったのだ。

 去り際にお礼は伝えたがほのかに気まずくって、口を閉じてペコリと会釈えしゃくをすれば源ちゃんは部屋の奥へ消え、それから横のバルコニーへ出る扉が開く。

 そこには彼が敷いたブルーシートと枕がそのままになっていて、それらを回収するらしかった。


「は、源ちゃん、おはよう!昨日は、ありがとね!」

「…おはよう、どういたしまして。着替えるならカーテン閉めてね」

「し、閉めるよゥ、」

 苦笑して扉へ入って行く彼は今日も寝癖が酷くって、今までと変わらない日常と少し変化した感情が混じり合う。

 でも差し引きしてすっきりとした気分で私は窓とカーテンを閉め直した。

「(私の着替えに興奮とかするのかな、変なの。赤ちゃんの頃から一緒で…お風呂入ったりお泊まりもしたし……この関係性もだんだん変わっていくのかな…)」


 それから制服に着替えてリボンをぴっと整えて、1階へ降りて祖父母と朝食を共にした。

「おう桃、角の骨接ほねつぎに世話になったんだって?どこか痛めたのか?」

祖父がどこから聞いて来たのか、少し前のトピックを持ち出して私の心配をする。

「ん、もう何日か前だよ。学校で階段を踏み外してね、尻もちついたの。何ともなかったよ、湿布で治った」

「あァそうか、ならいいんだ……事故か?いじめじゃねェだろうな⁉︎」

「事故だよ、ドジ踏んだの」

「そうか……源が一緒に居たって聞いたがよ、」

「もう、どこ情報?親切で連れてってくれたんだよ」

「たばこ屋のババアが待合室で見たんだってよ、まァ大事ねェならいいや……ごちそうさん、行ってくる」

 恐るべしご近所ネットワーク、祖父はささっとご飯を食べ切って仕事へと出て行った。

「行ってらっしゃーい」

「桃ちゃん、あの人ね、その話聞いた時にえらく心配してたのよ」

 自分用の朝食を一番最後に支度した祖母が、そう言って食卓へ着く。

「そうなの?」

「えェ、『どこか悪いんだろうか、お前聞いてくれ』って。あんな澄ましてるけどね、内心ホッとしてるんじゃないかしら」

「んー…そっかァ…」

本当の原因を聞けば祖父が学校へ殴り込みに行くかもしれない、背中にひと筋冷や汗が流れた。

「それにしても源ちゃんはよくしてくれるわね、おばあちゃんも安心だわ」

「ん…そうだね」

 祖父も祖母も私を本当に大切に想ってくれているのだ。

 少しずつ遠ざかって行く母の影があるだけに、祖父母の気遣いが温かく心に染みる。


「……おばあちゃん、お母さんから…何か聞いてる?」

「ん?………何も?」

「そっか………ごちそうさま、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

 あの息のつき方は何か含みがあった、「何に関してか」などと追ってこないことからも祖母はあの件について何かを知っているのだろう。

 それは色事に関しての話題だから子供の私に配慮してくれているのか、それとも私の心情をおもんぱかってのことなのか。


「(私より先におばあちゃんに相談したのかな…人生の先輩だもんね…でもそれはそれでジェラシー…)」

 できれば母の第一人者でありたい…そんな想いで腰掛けてローファーを履き、ずれた胸のリボンを直して、私は源ちゃんが待っている表へと足を踏み出す。
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