私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
13 / 46
2

13

しおりを挟む

「…桃、背が伸びたわね…」

宴の後、寝床で母はそう言って私の頭を撫でる。

 母の部屋は今でもそのままにしてあって、私は最初こそ嫌がったのだが押し切られて母のベッドで一緒に横になったのだ。

「そう?」

「うん、源ちゃんと並んで立ったらすごく様になってたわ…二人とも立派に大きくなってくれて嬉しい」

「うん…そういえばね、クラスメイトと好みのタイプの話をしてる時に、源ちゃんてばお母さんが好みだって言ったんだよ」

「あらまァ、そうなのォ?」

「しっかりしててバリバリ働いてるって」

「あらァ…見る目あるわねェ……なんちゃって、本当にしっかりしてる人に失礼よ」

 たまにはそんな謙遜けんそんもする、適度に自分をおとすのも会話術らしい。

 娘の前でもそんなことをしなくてもいいのに、と思って言わないのもまた私の会話術である。


「…桃は?好きなタイプとか」

「んー……?んー……男の人って…あんまりいい感じしないかな」

「あら、同級生とか」

「子供っぽいじゃん、あんまり…なんか色気付いちゃって気持ち悪い」

「あー、高校生になったらハジけちゃう子もいるわよねェ…まァ桃と源ちゃんは堅実にいくでしょ、うん……ごめんね、何度も言うけど…彼氏は作っても良いけど、自分で責任の取れないようなことはしないでね、これはお母さんからのお願いよ」

 これまでは「しないでね」とただ指示や言付いいつけだったのに今夜のそれは「お願い」だった。

 私は間髪入れずに

「うん、」

と応えた。


「…お母さんは…彼氏とかは?」

「えェ……うーん…仲良くしてる人はいるけど…趣味友っていうか…会社の人なんだけどね、一緒にご飯を作って食べたりしてる人はいるわ」

「それって彼氏じゃん」

「違うわよォ、気の合う話し相手、弟みたいな…感じかしら。男女の友情ってやつよ、」

「ほんとに?相手の人はお母さんのこと好きなんじゃないの?」

 私においても確かに源ちゃんと親しくしていてもラブな空気になったりなんかしないから気持ちは分かる。

 でも母と一緒に居て何も生じないなんて、そんな事があるのかと追及すれば

「んー…どうなのかしら…そうだったら嬉しいかもね♡」

と母は乙女のように笑って枕元のライトをパチンと消し、そのまま目を閉じる。

 もうそれ以上は聞かず、私も明日に備えて眠ることにした。





 翌日、三分咲きの桜の元で私たちは無事卒業式を迎え、母は保護者席で祖母と並んで涙を流していた。

「おがぁざんン…ごめんねェ、めいわぐがげでェ…」

「いいわよォ、あんたがちゃんと躾けてるから桃ちゃんは立派に育ってる、」

「なにもがもォ…だよりっぎりでェ…」

「離れてんだから仕方ないでしょォ、また関東に赴任することがあれば一緒に暮らせるわァ」

 卒業生が退場してからそのような会話があったらしい。

 ぐずぐずの母の顔は新島家枠で参加した祖父のビデオカメラにばっちりと映っていてレコーダーに保存もされている。

 後々それを見せられた私は少し貰い泣きをして、祖父母にも改めて礼を言った。

 ちなみに公立高校の一般入試の合否発表は卒業式数日後にあったのだが、源ちゃんは予想通り私と同じ高校へ合格、制服の採寸だなんだと慌ただしく悦っちゃんと動いたそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

いつだって、そばに。

茜琉ぴーたん
恋愛
 家電量販店・ムラタで働く人々の小ネタを集めた短編集です。 *本編は全て完結しております。 *キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

処理中です...