私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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 数日後。

 期末考査も終わった週末の日曜日、風呂から上がって自室へ戻ってきたタイミングで母から着信が入った。

 簡単に挨拶を交わしたら、母は改まった様子ですぐに本題へと入る。


『もしよ、もし……お母さんが再婚とか…したらね、ももはどう思うかなって…』

 久々に聞いた母の浮いた話に、私は驚きつつも

「え、いいじゃん。しちゃいなよ」

と歓迎した。

『い、嫌じゃない?』

「なんで?そんな変な人なの?」

『違う、とってもいい人…だけど…たぶん兵庫で暮らすことになるだろうし…は、母親が未成年の娘を置いて他所よそで所帯持つって…おかしいじゃない、桃のことないがしろにしてるみたいで…』

「……まぁそうかもしれないけど…いいじゃん、第2の人生。私ももうすぐ成人するし」

蔑ろにされたつもりも無いし転勤に付いて行かなかったのは私の意思だし。

 今更世間体なんて気にするのも変なの、と口の中のアイスを転がして溶かす。

『成人って、まだまだじゃない』

「制度が変わるじゃない、18歳で成人だよ、前も言ったじゃない、お父さんとの面会も終わらせるしさ。一人前になるまで育てたんだから好きに生きなよ。まだ学費は出してもらうけどォ」

『そりゃあ出すけどォ……何か食べてる?』

「うん、風呂上りのアイス」

『あそ…………ならね、その…例えばだけど……と、歳の離れた兄弟、が、できたりしたら…素直にどう、思う…?』

 それは私においても予想外、そうかよくよく考えればまだ母も出産ができる年齢なのだ。

「え、可愛がるよ」

と答えた後で「それは感情じゃなかった」なんて思った。

『本当⁉︎』

「会わせてくれるならお世話もするし…当たり前じゃん」

『も、桃にしてあげられなかったこと、両親揃って出かけたりご飯食べたり、そういうの下の子はさせてもらえるの、ズルいとか…本当に思わない⁉︎』

 母の熱量のこもった言葉は真に迫っていて、私に電話をする前に相当悩んだのだろうことが分かる。
 
 もう少し私が幼ければ羨んだり妬んだりしたかもしれない。

 それを言うと先ほどの「もうすぐ成人」発言と整合性が取れなくなるので

「あー、そういうことか……それは思うかも」

と程度の軽い言い方に留めた。

『そう、よね…』

「んでも思うからって辞めるべきじゃないと思うよ?普通の兄弟だって下が生まれたら上の子は寂しい思いするもんだろうし。私はおじいちゃんとおばあちゃんがいてくれたから別に…お父さんが居なくて寂しいとは思ったことないよ?生後半年から当たり前に居なかったんだもん」

『う、うん…ごめんね、ダメな両親で…』

「いいよ、もし兄弟ができても、お母さんの愛情が盗られたなんて思わない。私は15年もそれを独占してきた訳だし…お母さんが私に関心が無くなっちゃうと寂しいけど」

 建前と少しの本音と少しのワガママ、兄弟は居ても居なくてもどちらでもいい。

 のだけれど、幼子を抱く母の姿を想像すると途端に胸がきゅうっと痛くなる。

 でもここで「嫌だ、兄弟なんて要らない」なんて言えば母の人生をまた台無しにしてしまう。

 望むわけでもないし拒むわけでもない、どちらでもいいのだけれど大歓迎はできない。

 私はこんなに母に執着する人間ではなかったはず、溶け切ったアイスのコーティングチョコレートが歯に付いて口を開く度に汚らしい音が鳴った。
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