私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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 これといって何も無い土曜日。

 ゆっくり起きて祖父を仕事に送り出して祖母とワイドショーを観て…ちまたは引越しシーズンなんて話題を目にすれば母も忙しくしているのかな、なんて想像をする。

 新生活には家電は必需品、冷蔵庫に洗濯機、テレビにレコーダーなんかもよく売れるらしい。

 もっとも最近は家具家電付きの物件が増えたらしくて伸び悩み気味、その代わり少子化で子供ひとり当たりに掛けられる金額が上がってきていて、ハイクラス商品がよく出ている…とは母の談である。


『♪~♪~』

よく使うメッセージアプリではなくEメールの受信、私は待ち受け画面の通知を見てはたとミカンを剥く手を止めた。

「メールだ」

「……ももちゃん、」

「ん?……あ、」

「……」

祖母もまだギリギリ50代でスマートフォンを使いこなしている世代、ぱっと目に入った画面表示から差出人の名を見てしまい無言になる。

「なんだろ……お父さん」

 そうこれは私の父からの連絡のようだ。

 娘を妊娠させておいてさっさと離婚した憎い婿…祖母からしたらそんな扱いなのは仕方のないことだろう。


『桃、もうすぐ卒業だね、おめでとう。高校の入学準備は進んでるかな?足りないものがあればすぐに連絡してくれよ、父さんを頼って欲しい。卒業式はお母さんが行くと思うんだけど、せっかくの記念だから父さんも参加させてもらっていいかな。桃の晴れ姿を見ておきたいし、もし無理なら入学式でもいい、親としての役目を果たしたいんだ。お母さんは今遠方だから参加しづらいだろう?もし難しそうならユキさんが母親代わりに出てくれるって言うから、考えてみてくれないかな。お母さんだって式典のために2度も上京してくるのは大変だろ、賢い桃なら分かるだろう?考えてみて欲しい。』


「ふーん…おばあちゃんも読んで、こんなこと書いてある」

 老眼に配慮して文字サイズを大きくして手渡してあげれば、

「なに……ふん、………うん………あ?………はァ?」

画面をスクロールするごとに祖母の眉間は険しくなり、読み終わる頃には文字に対して完全にメンチを切っていた。

「なんだかねェ」

「これ…奈々ななにも送ってんのかしら?」

「どうなんだろ…それとなく聞いてから、転送してみるよ」

私はスマートフォンを返してもらい、ミカンの皮剥き作業に戻る。

 祖母は心配そうに

「…桃ちゃん、来て欲しいの?そりゃあ、父親だから当然の権利だとは思うけどさァ」

と私の意思を尊重する形で頭ごなしに反対はしなかった。

「んー…参列して写真撮るくらいじゃん?お母さんは同じ写真には映りたくないだろうけど…養育費は貰ってるしそれくらいならいいかな」

「…数年は滞ってたけどね」

「まぁまぁ……お母さんも…管理職だから休みづらいってのはあるかもしれないし…」

「もしそうでもアタシが行くわよゥ、父さんだって言えばスーツ仕立ててでも来るわよ」

祖母は奈々とそっくりの喋り方でふくよかな胸を叩き、元婿を来させたくないと主張する。

「ふふっ、おじいちゃんのスーツもいいかも」

「……それにあの人は…関係無いじゃないか…出る資格が無いよ」

「うん……んー……出てもらったところで感謝するのも変な話だよねェ」

「そうよ…これ、父さんには内緒にしとこうね、襲撃しちゃまずいから」

「うん、おじいちゃんは気が短いからねー」

 あの人とはユキさんのこと、私の父の現在の奥さんのことである。

 父の配偶者というだけで私とは血の繋がりが無い他人、何という続柄になるのかも私は知らないし調べる気も無い。
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