私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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「うん…大学を考えるならね…でもさ、専門でもよその地域に出た方が良いのかなって。今回の旅行で…いろいろ思うことがあってね、関東と関西の差とか、都会と田舎の差とか、僕はこのまま地元から出ずに一生を終えちゃうと、人間として浅~い生き方しかできずに死んじゃうんじゃないかって」

「そんな」

「便利でさ、人もあったかくて好きなんだけど…もっと世間を知った方が良いんだろうなって…頼り甲斐のある大人になるんじゃないかなって…そう感じたよ」

「そう、なんだ…」

もやもや、ざわざわ、心に忍び寄るのはこの先…漠然とした未来と、来週から始まる「夏休み」とは名ばかりの勉強漬けの日々。

「(源ちゃん…やだな…いつも一緒に…)」

「…まぁ受験までに夢も変わるかもしれないし…未定、未定だよ」

「うん…」

「どうしよう、ぼちぼち駅まで戻ろうか」

「う、うん、」

 私はまるで別れを切り出されたガールフレンドの様に落ち込んで、ぎこちなく源ちゃんの少し後ろを付いて歩いた。


「どうしたの」

と聞かれれば

「何でもないよ」

と答えるしかない。

 勝手に私がショックを受けているだけなのだから。


 電車に乗って駅まで戻って、お馴染みのコンビニで夕食を買う。

 ホテルに戻った時はさすがに疲れてへろへろで、それでも私は源ちゃんの部屋で一緒に食べることにした。


「あー、疲れた…でも夜景キレイだったね」

「うん…さっさと食べて寝よう」

 この部屋で夕飯を源ちゃんと摂るのも最後か。

 若いとはいえ日中の暑さと歩いた疲労が全身体内まで染みていて非常に気怠けだるい。

「源ちゃん、そのうどん気に入ったの?」

「うん、こっちの方が好き。今度取り寄せようかな」

「良かったねェ」

 源ちゃんは関西出汁だしのカップうどんを、私は今夜はおにぎりと即席の味噌汁にした。

「脚もパンパンだ」

「うん…でも源ちゃんのおかげで楽しかったよ」

「そう?そりゃ良かったよ」

 連日の観光で源ちゃんは地図と地形を把握してさくさくと進んで動いてくれて、初めてとは思えないほどにスムーズな観光ができたのだ。

 そういうところも頼れるよね、私しか知らない素敵な姿をこの旅行ではたくさん見せてもらえた気がする。

 肝心の好意に関してはまだ何とも言えないけれど、ふぅふぅとうどんを吹く穏やかなこの横顔も並んで見上げるあの横顔も、決して嫌いではなく隣に居て心地よいものだった。

 そして近い未来にあるかもしれない別離の道…それを思うとひとりになりたくなくて、むしろもっと一緒に居たいと感じてしまっていた。


「……美味しかった…よし…じゃあ部屋に戻ろうかな…」

「うん、」

「…明日は…お母さんを見て…また駅に戻る感じで」

「そうだね」

「またロッカーに荷物入れて、だね」

「うん、」

 私は食べ終わっても席を立たず、明日の予定を無用に披露する。

 それは帰りの電車の中でも確認しているし源ちゃんのことだから一度聞けばばっちり記憶しているはずなのに。

「……もう、終わっちゃうね」

「うん?うん…ごちそうさま、モモちゃんどうしたの?」

「いや、地元帰ったら…夏期講習が始まって…また日常に戻っちゃうんだなって…進路希望も出さなきゃいけないし…止まってた時間が進み出しちゃうみたいな…変な感じなの」

 将来に関しては私はまだ何も目指すものが無くて、今回種々の職業の方の働きぶりを見ては「私は何になれるんだろうか」と不安になってしまった。
 
 何かを売ったり、何かを動かしたり、何かを保全したり、何かを造ったり…私はこの先、何のプロになれるのだろう。
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