私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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「ただいまァ」

「おかえり、」

 家に上がって挨拶をすれば間髪入れずに祖母から返事があって、私はモツ煮の鍋を置きに台所へと向かった。

「ただいま、これ悦っちゃんから。今夜はモツ煮ー」

「あぁ、どうりでいい匂いがしてると思った。桃ちゃん、昨日の分の容器は返しといたよ」

「うん、聞いたー、着替えて宿題してるから…ご飯炊く?」

「あるある、大丈夫よ」

「んー」

悦っちゃんの濃いモツ煮は白米によく合うのだ。

 祖母の指のOKマークを確認してから私は2階へと上がる。


「ふー…学年総まとめ、か…」

 もう授業は新しく習うことは無くなっていて、これまでのおさらいとか二次募集に向けての対策とかそんなことばかりやらさらていた。

 今日のこのプリントだって採点するのは自分、週明けの授業で赤ペンを持ってセルフ答え合わせをするのだ。

 まぁ進学校に行けるだけの学力はある私はこれだけでは持て余すので高1の単元の予習は既に始めている。

 スタートダッシュをいかにスムーズに決められるか、そんなことを念頭に置いて日々取り組んでいるのだ。

「よーし…楽勝…」


 母は常々「勉強はしておいて損は無いからしておきなさい」と口酸っぱく言っていた。

 さらに私が中学生になってからは「彼氏ができても簡単にエッチしちゃダメよ」とも。

 離れて済む親の口からわざわざ電話で聞きたい話題ではないので後者はいつも相槌あいづちだけ打っていたが、保健体育の教科書の範囲で分かることは後でしっかりと調べて把握はしている。

 なぜ母がそんなことを言ってくるのか、それは言わずもがな「自分のようになるな」と私の未来を案じてくれているためであった。


 母…奈々は高校卒業間近の18歳で私を妊娠、卒業後誕生日を迎え19歳で出産している。

 母は割と聡明な女性で現在は大手家電チェーンの管理職、10代で子作りとはよほど将来設計を考えたのか…と思いきや、私の父親である夫とは入籍するも産後半年ほどで離婚したらしい。

 つまりは単なる授かり婚、私が「できちゃった」から相手と籍を入れ産まざるを得なかったのだろう。

 しかし以来親や近所の助けを借りながらシングルマザーとして私を育て、バリバリ働くしご飯もしっかり作ってくれるし美人だと褒められるし…なかなかに自慢の母親ではある。

 高校に入ればまた同じことを言われるのだろうな、当面彼氏を作る気など無いけれど、もしその日が来たら母の言伝ことづてはしっかり守る所存だ。

「(あのお母さんがヒニンとか考えずに燃え上がっちゃったのか…恋って自分を失くしちゃうのかな)」

予定外にできた私、母は当然はっきりそんなことを告げはしないけど、あの年齢で妊娠出産なんてイレギュラーに決まってる。

『いいこと?心から好きでも、桃の事をきちんと考えてくれる人とじゃないとエッチなんてしちゃダメだからね。甘い言葉でそそのかされたって、避妊してくれない男はゴミ野郎だから。そしてそれに流されちゃうと自分も困るんだからね』

 自虐や体験談を話せば私を傷付けることになるから母は一般的な事例についてしか述べないけれど、明らかに「私を反面教師になさい」と言ってるようでその話を二度三度は聞かされるのはしんどかった。
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