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I can be a maiden forever.
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しおりを挟むそこから咲也さん希望のチャペル撮影、バージンロードの両脇にみっちり白やピンクのロリータちゃんが詰め込まれた様子は圧巻。
吾妻さんも実に楽しそうにシャッターを切る。
「ステンドグラスの色味がよう合うてる、ええな、古湊くん!これそのまま表紙にできるわ」
「あは、それ良いですね」
ステンドグラスを通したカラフルな光が私のドレスを染めて、いかにも結婚式と言うようなイメージカットをさくさくと撮影した。
他のモデルさんも合流し撮影会をして皆と握手をして、ささやかな食事をして。
時間が来ると大量のロリータちゃんはバスへ乗り駅へと送り出されて行った。
「フラウさん、今日はありがとう」
「いいえ、こちらこそ…幸せをありがとうございます」
主催の彼女は持ち込んだ装飾品を集めて片付け、心から幸福そうに目尻を下げれば生きてきた年月の証の線が何本かきゅっと濃くなる。
そこに感じるのは着ている服とのギャップ、年増と言えば可哀想だけどメイデンのメインターゲットではおそらく無い。
お姉さんラインの『フラウ』がピッタリ来る世代なのだろう。
「まだまだ頑張って…可愛い服を作るからね」
「はい……正直ね、私ももう歳だしロリータも似合わなくなってくるでしょう、でも新しいお洋服のラインもできたし…それが『フラウ』って私のハンドルネームと一緒、これは運命かって思いましたわ」
「実はちょっと狙ったんだ」
「あら、そうですの?こんな嬉しいことはありませんわ…ライムさま、私は普段は母であり会社員ですの。ですから活動的かつフェミニンなブラウスが発売されて本当に…働くモチベーションというか…テンションが上がりますの、ちょっと鏡とか覗いた時にね。…エミルダさまもモデル復帰された、未来に希望が見えましたの…もっと歳を取っても『ウィズユー』の世代になっても……好きな服とまだ付き合って行ける、私、まだまだ乙女でいられますわ」
本当は誰に気兼ねすることなく好きな格好で歩くのが良い、けれど必ずしもそれができる環境ばかりではない。
自分を貫き通すのも強さ、そして諦めるのもまた強さだ。
けれど私のこれまでの行動はフラウさんに乙女の道を歩き続けられる可能性をもたらしたようだ。
40代、50代になっても好きな服を着られる喜びは彼女にとって何よりの幸福らしい。
「企画発案はライムさんなんだ、エミルダを現場に連れ戻したのもね」
「まぁ、そうだったんですの」
「うん…彼女は救世主みたいな…ブランドにとっても大切な存在になったよ」
「私たちにとっても…大切なお姫様ですわ…ありがとうございます」
もう私は照れて言葉も出なかった。
後ろを通り過ぎるエミルダさんがポンと肩を叩いて建物へ戻って行く、その後ろ姿は背筋が伸びていて強かで、けれど可憐だった。
彼女が着ているのはそのオフィス向けの『フラウ』のスカートスーツセット、よく見れば分かるという部分にブランドロゴを入れたり花の刺繍をあしらったりと趣向が凝らしてある。
まぁパーティーだというのにドレスで来なかったのは彼女なりの意地か副社長としての矜持なのか。
スカートのスリットから伸びる脚はやはり長くて美しかった。
「それでは、私は持ち込み品を回収してから帰りますわ」
フラウさんへ目線を戻せば会釈して片付けに入るところで、ペコリと頭を下げると疲れか安心したからかじんわり目頭が熱くなってくる。
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