親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Little me.

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「でもさ、小柄に生まれたから細かい作業が得意なのかもって考えたら…これは強みだよね」

「…ええ」

「ブランドイメージに合った顔立ちと体格、これも武器だ」


 確かに端正で華奢きゃしゃで、ブランドとこれ以上なくマッチしたデザイナーだと思える。

 自分を使って商品をアピールできるならその宣伝効果は中々だろうし、「これがデザイナーです」とムキムキのマッチョマンが出てくるよりはイメージも良いのではないか。

 私はマッチョが出てきた方が面白いと思うけども。


「…はい」

「吾妻さんとね、親指姫のイメージの子を探そうって話でスカウトかけてたんだ。単純に小さい子を連れてくるとは思ってなかったけど…結果オーライ、ライムさんは僕の作った親指姫にピッタリの存在だった」

「……」

「自信持って、僕はライムさんの身長を伸ばしてあげることはできないけど、君に似合う服を着させてあげることはできる。まぁ普段使いの服じゃないけどさ、この仕事してる間だけでも…胸張って過ごしてくれると嬉しいよ」

「…はい、」

 返事をして熱くなった目頭を指で押さえると古湊さんはオロオロしてペーパーナプキンを数枚渡してくれて、

「こんなので拭けないです」

と言えば弱ったように笑った。


「すみません、私も卑屈になっちゃって…おごりが出てきちゃってるのかな」

「いいんじゃない、その170センチの子は普段はパンク系のブランドをメインでしてるんだ、だから親指姫は『こんなの着たくない』ってだいぶんごねたよ」

「へぇ…」

「それぞれに似合うものと着たいものがある、ライムさんは言ってみれば少数派だからサンプルにもまだ呼ばれてないけど…僕のスーツには是非小柄代表として参加して欲しいな」

「…似合うかな」

「似合うよ、僕はライムさんのイメージで作ってるから…似合わないはずがないよ」

「はい」


 チビ同士で傷を舐め合うなんて不憫なこと、けれど私を褒めてくれる彼の言葉は大きな励みになった。



つづく
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