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Little princess
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しおりを挟むそしてそして、時が経つこと1年と数ヶ月。
相変わらずモデル兼パソコン講師の私は教室にて受講者さんを送り出してチェアへと腰掛ける。
「先生、体大丈夫?」
「はい、座り仕事だからなんとか…所長こそ、座って下さいよ」
扉から覗いたのは法人事業部の清里所長、私はキャスター付きのチェアを車椅子のように便利に使ってウォーターサーバーにてカップへ水を注いだ。
講習時間はあと1時限あるけれど飛び込みの受講客は滅多に来ない。
実質終業と見てテキストや私物を1ヶ所へまとめていく。
「うん、ふぅー……先生、変なこと聞くけど、その…体、大丈夫?…自然に…いけそう?」
「んー…おそらくは…成長も順調ですしね、大きくなり過ぎたら帝王切開もありだと…ふー…」
少し動いただけで上がる息…今、私のお腹には新たな命が宿り7ヶ月、すくすく育つ肢体はじわじわとこの小さな母体を圧迫していた。
「そっかぁ…体に占める赤ちゃんの割合が大きいものね」
「分かってたことですけど…所長は?」
「うちも順調だよ、1回逆子になったけど体操させられて気付いたら元に戻ってた」
「そりゃ良かったですね」
なんと所長も第2子懐妊で安定期に入ったところ、生まれる頃には上のお子さんは3歳になっているそうだ。
順当に行けば私たちの子は同級生になる。
私は子育ての後輩として所長へあれやこれや質問したりするようになっていた。
もっとも彼女は家事はからっきしなので調理や衣類の選び方などは専門外らしい。
母体に関することしか答えてはくれなかったがそれでもためになることは多くて励みになった。
「うん……先生、そのワンピース可愛いね」
「あ、うちの主人のデザインで」
「メイデンかぁ、良いね」
「どうも」
丸いお腹を優しく包むライトブラウンのマタニティワンピース、これは古湊咲也…つまりは夫がデザインしてくれたものだ。
彼はかつての宣言通り妊婦用の普段着から職場で使える事務服まで作ってくれて、私がモニターとなり着心地や使い勝手を逐一報告させられている。
妊娠初期から毎月マタニティフォトもスタジオで吾妻さんに撮ってもらい、当然というか試作品を着てモデルとしての活動もまだ続けているのだ。
夫は日々大きくなっていく私のお腹を愛でては愛を言葉にしてくれて、洋服という形で気持ちを表し与えてくれる。
職権濫用もいいとこだけど、授乳服や妊産婦用のパジャマなども試作品がどんどん増えて私のマタニティライフは充実している。
サンプルをSNSに上げてみたところ評判は上々、『早く商品化して』との声も多数頂いているらしい。
ちなみにSNSは精神衛生に良くないから「見るな」と夫から言われていて、それはつまりアンチからの心無い言葉が今も載せられているということで…何をしても気に入らない人はいるもんだなぁと達観している。
むしろこの気にしないスタンスが通常営業だったっけ、中傷コメントに心痛めたあの時が自分としては珍しいくらい多感だったのだ。
夫はあまりに酷いというか越えてはいけないラインを越えたものに関しては粛々と対処している様子、そこまでではないものにはダイレクトメールでお話させてもらっているみたいだ。
元々が万人受けするブランドではないから数名のアンチを切ったところであまり影響は無い。
それより怖いのはファンが個人的に結託してアンチをネットリンチしちゃうことだよね…とは夫の談である。
確かに熱狂的なメイデンファンもいらっしゃるのだ。
私たちが結婚を発表したショックにより集めたメイデンの服をビリビリに割いた写真をコメント欄に貼り付けた強者もいたという。
その人は特別没頭していたいわゆるメンヘラちゃんらしいのだが、なんと言うか本気で『創造主・古湊咲也』に恋をしていたらしい。
だからこそぽっと出のライムと引っ付いたのが許せなかった、だから自分で大切な世界を壊した。
のだけれど今はオフィスラインのフラウが気に入り再びユーザーとなり『やっぱりコミーさまのデザインが好き、辞められない』といけしゃあしゃあコメント欄に現れたりしているそうだ。
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