親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Complex

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「あ、あー♡♡♡ラムっ、分かる?ん♡まだ出てる、ラム♡♡♡」

「ふぁい、ん…ん…」

 彼がようやく射精したのは夜中の3時ごろ。

 夜明けとまではいかなかったけれどやっと解放された私はヒリつく股を押さえて露天風呂へと駆け込みその温かさに震える。

 そして腕や腹に付いた咲也さくやさんの歯形の痕を摩っては今後の付き合い方をしばし考え込んだ。


「…僕も入る……ごめん、痛かったよね」

「噛み癖、ヤバいですよ」

「ごめん…僕のだって思ったらマーキングしたくなっちゃって」

「……こわ」

「ごめん、本当……マジで嫌なら最中に殴ってくれていい…ごめん」

殴っても余計強く噛むくせに、彼はしゅんとうつむいてぱしゃぱしゃと顔を洗う。

 見かけによらない凶暴性はいささか不安、でも人を見かけで判断すること自体が失礼という原点に帰り着いてしまうのか。

「血が出るくらい噛んだら別れます。ずるずるとDV被害者になりたくないので」

「分かった、ごめん……ラムさんの肌が白くて柔らかくて噛みたくなっちゃうんだ、気を付ける」

「咲也さんって謝ってばっかりですね」

「そうだね…」

「エミルダさんも噛みました?」

「噛、んでない…んなことしたらタコ殴りされてただろうね」

 確かにエミルダさんの方が咲也さんより15センチは高いものね、女性とはいえあの長い手足ではリーチも違うし簡単に馬乗りにされてしまうかもしれない。


 さてまた出てきた元カノ話、この際だからと私は色々掘り下げることにした。

「そういや、別れは突然だったんですか?」

「積み重ねじゃないかな。そりゃ僕がチビで頼りなくて?セックスも満足できなくて?だから」

「自虐は結構ですって」

「性格に嫌気がさしてたってのもあるよ…エミは好戦的なマウント気質になってたからね…かつてのラムさんみたいに」

 まだ『かつて』と言えるほど遠い過去ではないから気恥ずかしい。

 それはもちろんいい気になって勘違いして他者をけなしていた自分に対してである。

「例えば?」

「他のモデルさんの体型いじりとか…直接悪し様に言ってるの見たこともある…社長として叱って相手を庇ったら余計にエスカレートしたよ」

「ひえ…前に言ってたモデルってエミルダさんのことだったんですね」

「そう、今はそんなアピールする機会が無いから大人しいけど…スタジオに来る回数も増えたし、さっきの着信もだし……本来の業務をおろそかにするなら考えなきゃ…」

 思い悩むその顔は経営者のそれで、私としてはぼちぼち眠たくなってきたので続きはベッドでしてもらおうと先に湯から上がった。
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