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I can be a maiden forever.

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 それからまたしばらく経って…梅雨入りして湿度の高いデートの日の朝。

 目覚ましのアラームが鳴るより前に自宅のチャイムが鳴った。

 うちは日曜日はとことん遅起きを楽しむ家庭で、父も母も「こんな時間に来る奴はまともじゃない」と布団から離れない。

 そうだろうと思って私がのそのそ台所のインターフォンを確認すると、小さな画面には見慣れた男性の笑顔が映っている。


「……サプライズ…?」

 待ち合わせまではまだ3時間もある、そこを騙されると思ってなかった私は手櫛てぐしで髪を整えつつ『通話』ボタンを押した。

咲也さくやさん?」

『あ、おはよう!出てこれるかな?』

「…待って下さい、着替えるので」

『パジャマでもいいよ、すっぴんでもいい』

「はぁ?」

 もしかして早朝からラブホテル直行なのか。

 春から咲也さんは新たな仕事が増えてバタついており、以前の申告通りまともにデートもできなくなっている。

 ここ1ヶ月は特に忙しかったみたいで撮影後も食事だけ、あんなにがっついていた彼が私を求めなくなっていた。

 なので久々デートで即ホテル夜までコースもあり得ない話ではない。

 体が錆びついたのでなければ宵越しプランもあるかもしれない。

 帰りも送ってくれるんだろうけどどうせなら車内もデートの気分で居たい…私は決めていた服に着替えて下地とアイブロウだけ塗って、出かける旨を書き置きしてから玄関を出た。


「ちゃんと着替えたんだ、偉いね」

「そりゃあお外に出るんですから」

「そのチュニック可愛いなぁ、ふふ」

「……あの、それで今日はどこへ?」

「撮影、急遽入ったんだ」

キョトンとする私を横目で確認した彼は納得した様子でエンジンを掛ける。


 車は慣れた道を進んで市街地へ、いつものコインパーキングへ駐車した彼は

「ちょっと待っててね」

と先にスタジオへ向かって行った。



 何かのサプライズか、しばらくして戻って来た彼に手を引かれて私もスタジオへと入る。

「お疲れ様でーす…え、え?」

 踏み入ればいつもの吾妻あづま班メンバーがどわっと押し寄せて囲まれる。

 「まずこっちよ」とメイクルームに連れられると服を脱がされて簡易ベッドに寝かされ全身のマッサージが始まった。


「???」

「脚もキレイにしようね~」

「はい?はい…」

「お顔もね、メイク落とすわよ。…もっと小顔にしましょうね」

「はぁ、……いだい、いだぁい!」



 1時間くらいはされていたのだろうかほろほろになるくらい揉みほぐされて柔らかくなった私は、シートマスクを貼り付けられ下着のまま更衣室へと入れられる。

 薄めのタイツを履きコルセットみたいなカップ付きインナーを胸に巻いて後ろをぎゅっぎゅと締め上げられ、「次はこれね」と見せられたのは淡い淡いアイボリーのドレスだった。


 私が普段メインで着ているのは咲也さん好みのアンティークっぽさを匂わせる可愛過ぎないデザインだ。

 これはその新作なのか真っ白ではなくアイボリーというところがまさにそうで…くすみカラーの花モチーフが所々に付いていて全体的にお得意のセピアカラーにまとまっている。

 けれどフリルと透かしレースがふんだんにあしらわれていつもより豪華な作り、さらに丈はメイデンの主力商品によくある膝までのスタイルで、つまりは私の主戦場でなはい商品のはずだ。


「…なんか派手…」

「完全オーダーメイドよ、…もうパック取って良いわよ、サンドイッチ買ってるから先に食べましょうか。パニエ入れてもお手洗いは普通に行けるはずよ」

「はい、はい…」

「長丁場よ、しっかり食べておいてね」

「?はい…」

 長丁場には慣れているけどそういうことじゃない。

 狭くなった胃にハムサンドを入れて水分も補給…この辺りから私はなんとなくかつて従姉妹いとこのお姉ちゃんに招待されたの準備風景に似ているなぁなんて思っていて、「いやでも撮影だよね」と心を落ち着ける。

 けれどスタッフさんたちの慈悲に溢れる顔付きやこぼれる笑顔に当てられれば思い当たるのはまさに

 ドレスに脚を入れて袖を通し背中のファスナーを上までぴいっと上げて…振り返った鏡の中には小さな花嫁が居た。
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