11 / 53
Past me, present me
11
しおりを挟む「…あの、ライムさん、本当ごめん。空気に流されちゃって…申し訳ない」
「いいですよぅ、減るもんじゃなし」
「あっさりしてるんだ」
「んー…事故でしょう」
メイクルームへ戻り装飾品を外している間も古湊さんは何故かそこに居座って、私服へ着替えようとカーテンの中へ入れば自身も衣装を脱ぎ始めたようだった。
「ライムさん、今回のこのスーツがウケたらさ、第2弾とか作るから…またモデルしてね」
「ええ、その際には呼んでください」
「…あのさ、ライムさんは…男慣れしてる方?」
「は」
メイクさんもスタイリストさんもきっと面食らっているだろう、鏡の前を片付けていた音が一瞬止んだ気がする。
「慣れ…は分からないですけど、そこまで恋愛にドリーム抱いてないです」
「そう…じゃあさ、僕とこれからディナーしない?」
「はぁ…良いですけど」
「そんなに堅苦しくない所にするから…表で待ってるね」
「はぁ」
カーテンを開けると残されたメイクさん・スタイリストさんが手を取り合って何やら喜んでいて、
「ライムちゃん、古湊さんとデートなんてやるじゃない♡」
と色めき立っていた。
「そんな珍しいことですか?」
「珍しいと言うか…古湊さんが自分からモデルを個別に誘うなんて無かったもの、前の彼女と別れてからはぱったり」
「へぇ…お堅いんですかね」
「ふふ、違うわよ…」
その後掻い摘んで聞いたところによると、古湊さんは特別硬派という訳でもなく下ネタなんかも吾妻さんと話したりするのだそうで、しかし甘いマスクの割にモテる訳ではないらしい。
何故と尋ねれば「そりゃ…身長がネックみたいよ」とのことだった。
なるほど今時は女の子でも160センチ以上の子はざらに居る。
ましてやスタイルを売りにしているモデルなら尚更で…155センチの古湊さんはバランスとしても対象になり難いのかもしれない。
まぁデザイナーだからといって皆がモデルをデートに誘うとは限らない。
けれど職場で彼が異性を誘うこと自体がスーパーレアとのことだ。
「(何食べるんだろ)」
『ディナー』と言うからにはそれなりの場所か、私は持ち金を確認してから表へ出た。
「ライムさん、こっち…パーキングに停めてるんだ」
「車だったんですね……わ、」
スタジオから建物一軒挟んだコインパーキングに停めてあったのは誰でも知っているエンブレムの付いた大型の輸入車、けれどスタイリッシュな古湊さんにしてはゴテゴテのブランドアピールが強過ぎてミスマッチに思える。
「乗って、少し走ろう」
「はぁ…あ、こっちか…」
助手席に腰掛ければ普段の運転中と同じ感覚、けれど前にハンドルは無いしシートの傾斜が大きいので空を見上げるような角度で落ち着かない。
「…おかしいだろ、こんな大きい車」
「そんなことは…」
走り出した古湊さんはサングラスを掛けてニコリと口元だけ微笑む。
私はなんとなく「足がブレーキペダルに届くのかな」なんて失礼なことを考えたりした。
「足は届くから大丈夫だよ」
「…はぁ」
「ライムさん、この車どう思う?」
「カッコ、いいと思いますよ。古湊さんっぽくないですけど」
「やっぱり?そろそろ買い替えようかな…大型の報酬が入った時に買ったんだけど…まぁ不釣り合いだと思う。その…当時の恋人に選んでもらったんだ、そしたらこんな大きい車になっちゃった」
「乗り換えたらいいんじゃないですか」
「どんなのが良いと思う?」
私は全くと言って良いほど自動車には詳しくない。
排気量だとかナンバープレートの区分だとかもよく分かっていない。
けれどすれ違った車が丸っこくて色も可愛かったので
「あれとか古湊さんっぽい」
とお勧めしてみると
「いいね、あれにしようかな」
と彼は俄然乗り気だった。
「…お金持ちなんですね」
「これを下取りしてもらったらそれなりになるさ……ごはん、フレンチだけど堅苦しくないからね」
「へぇ」
奢りで良いのかな、そういうことだよね、しばらくして着いたらキラキラした外観に少々怯えつつ彼の後ろをついて歩く。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
わかりあえない、わかれたい・5
茜琉ぴーたん
恋愛
好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。
人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。
振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。
5・幼馴染みマウントを取られて、試合を降りた女性の話。
(6話+後日談2話)
*シリーズ全話、独立した話です。
すいれん
右川史也
恋愛
植物しか愛せない大学生の慎太郎は、大学で、蓮のような傷を持つ明日香に出会う。
植物しか愛せない――それでも人間を愛したい慎太郎は、明日香に話しかける。
しかし、蓮のような傷がコンプレックスで明日香は他人と接するのに強い抵抗を感じていた。
想いがずれる二人。しかし、それでも互いは次第に惹かれ合う。
二人が出会い、本当の愛を見つける恋愛物語。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる