3 / 53
Little me.
3*
しおりを挟む約束の日。
指定されたスタジオに行けばそこにはまるで湖畔を模したようなセットが組まれていて、森の木々というよりは草木、名も知らぬ単子葉類の葉が複数枚天井からぶら下がっていた。
そして大きな双子葉類の葉っぱが1枚、もちろんハリボテだが布地の目を上手く利用していて葉脈の質感が美しい。
「いらっしゃい、ラムちゃん」
「わー…吾妻さん、本当にカメラマンだったんだ」
「言うたやんな、名刺渡したやんな、」
「うん…いや、エッチな撮影の線も消えてなかったから」
「まぁええわ…警戒心は持たんとな……ラムちゃん、今日はこれで…何のイメージか分かる?」
「え、なんだろ…水辺に関係あるの?」
川下りのイメージがある御伽話なんて桃太郎とか瓜姫くらいしか思い浮かばない。
河童なんて攻めたことはしないだろうし…私が考えていると吾妻さんが助け舟を出してくれる。
「葉っぱに乗ってさ、川を移動するやつよ」
「…一寸法師?」
あぁあれはお碗だっけ、そう思った矢先、スタジオの端から
「ぶっ!」
と吹き出す声がした。
「⁉︎」
「あ、ごめんなさい…お、惜しいかな…親指姫だよ、」
「…はぁ」
惜しくないじゃない、超笑ってるじゃない、呼吸困難になってるじゃない。
その人はひーひー言いながらこちらへ近付いてきて、
「ごめんごめん、親指姫、読んだことある?」
と私へ尋ねる。
「…あるけど…憶えてないです…」
「そっか、可愛いお話だよ、また調べてみてね…申し遅れました、僕は古湊咲也、このブランドの運営会社の社長でチーフデザイナーをやってます」
「え、すご…」
デザイナーって男性なんだ、しかも若くってそこそこイケメンで。
彼はサンダルを履いた私より少し身長が高いくらいの、要は男性にしてはチビだった。
「君いいね、ちょっとクールな感じで…でも化粧映えしそうだし…うん、始めようか、メイクさんに付いて行って、」
「あ、はい、」
誘導されるままに控え室へ、カーテンで区切られたスペースには同じデザインの服がサイズ違いで何着か吊るされている。
隣のスペースでも着替えている音がして、何人かが集まって同時進行なのだなということが分かる。
私服を脱いだらスタイリストさんが入ってきて、あれよあれよといううちにインナーを着せられタイツを履かされ親指姫モチーフのワンピースを着せられた。
「あの、さっきの古湊さん、お化粧してました?」
別に今の時代化粧は女性だけのアイテムではないし男性向けのファンデーションも売られてはいるけれど、彼はまつ毛もバサバサに整えてあった。
「うん、古湊さんもモデルやるからね、先にメイクしたのよ…うん、彼もドレス着るわよ」
「え、女装家なんですか?」
「女装というか、モデルとして何でも着るのよ。ジェンダーレスって言うのかしらね」
「へぇ」
「私設のファンクラブなんかもあるのよ、ファンミーティングとか定期的にやってるから、継続して働くなら参加してみても楽しいかもよ。うん、採寸データ通りね…はい、次はメイクね、こっち」
また誘導されてメイクスペースへ、ケープを着けて複数人の担当が髪もメイクも同時進行でやってくれる。
髪を巻いてハーフアップに盛り上げて、編み込んで盛って巻いて盛って、大ぶりな花を挿せば顔の小ささが際立って白さと透明感も増して見える。
「わぁ」
「目閉じてね、綺麗な二重ねー」
「……あの、親指姫って…どんな話でしたっけ?」
「花から生まれたお姫様が誘拐されちゃってね、なんやかんやあってツバメに乗って王子様に嫁ぐ的な」
このチームは吾妻さんナイズドされているというか大雑把で、でもいい加減じゃなくて気持ちの良い人ばかりだ。
まぁざっくりとした説明をふむと受け入れる私も同類なのかもしれない。
「花の姫かぁ」
だからなのかタイツの模様も小さなチューリップ、ワンピースの配色もよくある赤・白・黄のチューリップカラーでまとめてある。
けれど全体的に燻んだ色味というかビンテージ調というのかセピアのフィルターを掛けたような雰囲気で、甘々のロリータというよりはアンティークっぽいテイストなのかなと感じた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
わかりあえない、わかれたい・5
茜琉ぴーたん
恋愛
好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。
人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。
振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。
5・幼馴染みマウントを取られて、試合を降りた女性の話。
(6話+後日談2話)
*シリーズ全話、独立した話です。
すいれん
右川史也
恋愛
植物しか愛せない大学生の慎太郎は、大学で、蓮のような傷を持つ明日香に出会う。
植物しか愛せない――それでも人間を愛したい慎太郎は、明日香に話しかける。
しかし、蓮のような傷がコンプレックスで明日香は他人と接するのに強い抵抗を感じていた。
想いがずれる二人。しかし、それでも互いは次第に惹かれ合う。
二人が出会い、本当の愛を見つける恋愛物語。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる