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12…食べかけのあれ
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しおりを挟む「遅かれ早かれだろ?きっかけというか…分かって欲しい」
「んー…」
「美羽ちゃんはなんで俺の味方をしてくれないの?」
「味方…味方ですよ、そりゃあ。でも二人のことを宇陀川さんを契機にするのはどうかと」
「宇陀川さんのこと、嫌いじゃないの?」
「そりゃ好きではないですよ、気持ち悪いし。でも仕事面で鍛えられたのも事実だし同僚として普通に」
「………ぉ…!」
彼はぱくぱくと何か言いかけて、自分でもハッとして音までは発しなかった。
たぶん「ごちゃごちゃうるせぇなぁ」とかそんなところか。
男性の粗暴な言葉遣いに耐性はあるが、雅樹さんの口からその台詞は聞きたくなかった。
宇陀川の差し金で知り合って宇陀川きっかけで結婚か、これはまごう事なき『宇陀川婚』だ。
淋しい外灯の光だけでも私の呆れ顔は見えたのだろう。
雅樹さんはひと息ついて
「考えておいて、ごめん…美羽ちゃんが宇陀川さんと接するのも嫌なんだ、引き離したい」
と私の頭をぽんと叩きまたふぅと息を吐く。
「……はい」
要はそれは逃げなのだ、ハラスメントで心を患った人も見たからそれ自体は危機管理として正解だとは思う。
けれどそこに私を巻き込むのは如何なものかと…思わんでもない。
というのも私は宇陀川からそれほど酷い仕打ちは受けていないのだ。
それは私が女だからということもあろうし、体調を崩すほど傷付いた雅樹さんからすると温い嫌悪感くらいに感じるだろう。
口を揃えて悪し様に言うほど嫌ってはない、当事者ではないんだから必要以上に嫌ってはこちらが悪者になってしまう。
そして私も役職こそ付かないがそれなりに営業として信頼されつつあるのだ。
この地でお得意様も出来たし上司のお客さまのアテンドを任されたりと色んな経験を積ませてもらっている。
そして1年少し務めた競合調査だってもう後輩にバトンタッチして売り上げに専念させてもらえるようになった。
これらを捨てて新たな店舗でまた『頼りない女子』扱いされるのは正直歯痒い。
もちろん普通に働いていても転勤はある話だ。
でも転居無し地区内で回るのが通常であってトレードや元店舗の上長からの推薦を持ち修行みたいな形で送り出されることがほとんどだ。
「こんな子が行きますよ」と管理職同士で申し送りなんかもされるそうだしタイプや扱い方なども伝えられると聞く。
一緒に落ち延びるのか、まるで駆け落ちみたいだな…今の本店から中規模・小型店舗に行くとなるとどうしても格下げ感が湧いて悔しく感じる。
「じゃあね」
「はい、おやすみなさい」
「……またね」
ムラタの従業員駐車場まで送ってくれた雅樹さんは簡単な挨拶だけくれて、すぐ背中を向けて元来た道を帰って行った。
彼が昇進するのはそう遠くない未来の話だ。
本当なら喜んであげたいのにこのままではそうもいかないだろう。
「…転勤かぁ…」
一方でキャリアと呼べるほど立派なものでもないが、積み上げて来た実績は私の財産だ。
奥様稼業は憧れるが専念する訳でもなしむしろ彼は共働きを推奨していた。
現状に不満が無いものだからいきなり夫都合の転勤は承伏いたしかねる。
寿退社に憧れた時代もあったが失うとなれば社歴は惜しい。
しばらく車内で「うーん」と考え込んでから自宅へと帰った。
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