38 / 71
9…いっぱい食べる子が好き
38
しおりを挟むさて宇陀川事変から約5ヶ月。
年度末の棚卸も終わって落ち着いた5月のある日…私は初めて栄さんこと雅樹さんとまともなデートをすることになった。
彼はこの度めでたくオーサキの副店長に就任することとなり、その研修やら合宿やら棚卸しやらでかなりバタついてしまったのだ。
これまでは週末の仕事終わりにパン屋さんで食事をするだけでそれでも楽しくはあったのだが、なんとか業務をものにして心にも余裕が出来てきて、ようやく丸1日使ってのお出掛けに誘われた。
待ち合わせはオーサキの駐車場、車を置かせてもらい雅樹さんの車に乗せていただくことにしている。
行き先は人気のホテルビュッフェで、これは私の希望ではなく彼の提案であった。
彼は人の食事姿を見るのが好きだから願ったり叶ったりなのだろう。
本人は少食だというのに同じ金額を払ってまで行こうと言うのだから余程の熱意を感じる。
「(変じゃないかな…)」
長袖では少し暑さを感じるくらいの陽気。
本日は食べてもお腹のぽっこりが目立たないようにふんわりとしたチュニックブラウスとスキニージーンズを合わせて来た。
体の凹凸が目立たずシンプルかつフェミニン、長めのワンピースだと子供っぽくなってしまったのでこれくらいの大人っぽさが感じられる方が良い。
待つこと数分、敷地内に大きなセダンが入って端の私の車の横に着けた。
「おはよう、乗って」
「おはようございます!……お邪魔しまーす…広ぉ」
フレグランスはシンプルなグリーン系の爽やかな香り、助手席は限度いっぱいまで後ろに下げられていたので足元がやけに広々として持て余す。
「掃除したから下げてるだけ。前に寄せようか」
「あ、大丈夫です」
「ん、じゃあ行こう」
車は裏道から国道へ、流れる音楽は耳にしたことがあるJ-ROCKだった。
「…このバンド、好きなんですか?」
「うん、青春だよ…聴いたことない?」
「ありますよ、リアルタイムで聴いてはなかったですが」
「あー、世代差を感じるねぇ」
5つしか違わないのに大袈裟な、ちょいとしたマウンティングを感じつつも彼の学生時代を想像しては顔がニヤける。
詰襟かな、ブレザーかな、きっとカッコよかったんだろうな。
質問責めにしても良いけれど小出しにしたい感もある。
これまでの交際の間で出身地などは聞いたけど話題の中心はやはり仕事のことばかりで、あれが安いだとかこれが凄いだとか意見交換会に近いデートだった。
パンを食べている時の顔をじぃっと見つめてくるから恥ずかし紛れに口をついたのが家電のことだった、ついついそれが癖になってしまったのが敗因だろうか。
せっかくの私服でのデートだ、本日は思い切ってキス以上のこともできたら良いなぁ、なんて…思っていたりもする。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる