34 / 71
7…いろいろ食わせたい
34*
しおりを挟む「でも、その…たまに本当の、素の顔が見えて、そっちの方が素敵で…お話できるのが嬉しくて…意識し始めたんです」
「見た目が好み?」
「それもありますし…私はそこまで男性と触れ合わないもんですから、距離が近くなると軽率にドキドキしてしまって…もっと、栄さんのことを知りたいなって…それでオーサキへと…あ、会いたくて…」
私がオーサキへ行く理由は本来なら憂鬱な業務だけ、それをこんなにワクワクする時間に変えてしまったのは他ならぬ栄さんが居たからだ。
「目、が、あの…じいって見られると緊張して、ドキドキして、笑い声とか…聞けるとレアというか嬉しくて…か、構ってもらえると意識しちゃうんです、す、好かれてるのかなって思ったらもっと会いたくなって…あ、あの、」
「うん」
スッと立ち上がった栄さんの顔は暗くてよく見えない。
でも目が慣れてくると彼はうっすら笑って自然に目が細まっていた。
「栄さん!」
「はい」
「あの、か、彼女とか、いますか⁉︎」
「え、そこから?」
「だって」
「ぷふっ…いない、いないよ」
あぁまた笑ってくれた。
寒空で冷えた私の頬を両手で挟んだ栄さんは少し屈んで覗き込むようにして、
「美羽ちゃん、付き合ってよ」
と尖った鼻先をちょんと私のそれにくっ付けた。
「は、はい、さ、先越された…」
「こういうのは男から言わせてよ」
「結構、メンツとかこだわるタイプですか?」
「まぁね」
それも男らしくって素敵です、でも宇陀川に敵わない小物感も嫌いじゃないです…思っただけなのについ口に出してしまったら栄さんはバツが悪そうに頭を掻いて、
「まだまだなのよ」
と私を抱き締める。
「……あったかい」
「うん…美羽ちゃんさ、いっつもちょこちょこ動いて可愛いんだよ」
「小さいので」
「小動だけに?名は体を表すって言うけど…マジウケるわ」
もはやそれは言われ慣れた文言だ。
狙って小動家に生まれた訳ではないので手柄にもならないが覚えてもらいやすいし得はあると思う。
しかしまた飛び出した「可愛い」に照れが出て、ちょっと言葉が崩れたのも若者らしくてきゅんとした。
「失敬な」
「ごめん、それもあるけどさ、なんか走ってるのとかコマ送りみたいで面白いしドジっ子っぽいし…物食ってる時なんかすげぇ可愛い…色々食わせたいって思っちゃうよ」
「でも次は割り勘にしましょうね」
「……ぷふっ…そうね、うん…そうしよう…」
しばらく抱き合った私たちは通行人の足音にビクついて体を離し、私の車へと入りここでやっと連絡先を交換した。
そして心の安定材料になればとスマートフォンのメッセージアプリからメールボックスから電話帳から全て開示して、『ウダガワ』の『ウ』の字どころか悲しいほどに男っ気の無い生活であることを証明することに成功する。
「ほら、全然連絡も取ってません」
「美羽ちゃん、モテないの?」
「モテませんし…彼氏もこれまで1人しかいたことありません」
「へぇ」
「栄さんは?」
「片手で足りるくらいよ。転勤で疎遠になってね…半年は独り身かな」
栄さんもアプリを開いてスクロールして、直近のトークルームが仕事関連ばかりであることを見せてくれた。
通話履歴も同様で上司と部下との記録ばかり、こうも色の無い生活とはねと顔を見合わせて笑ってしまう。
「じゃあ…お互いこう…タイミングが良かったんですね」
「そうね、ラッキー」
「…嬉しい」
「俺の方こそ」
カーステレオのライトが照らす中で私たちはそれとなく顔を近付けてまつ毛を伏し…
「美羽ちゃん、いい匂いだね」
「栄さんこそ」
香ばしい初めてのキスを交わした。
つづく
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる