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7…いろいろ食わせたい

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「でも、その…たまに本当の、素の顔が見えて、そっちの方が素敵で…お話できるのが嬉しくて…意識し始めたんです」

「見た目が好み?」

「それもありますし…私はそこまで男性と触れ合わないもんですから、距離が近くなると軽率にドキドキしてしまって…もっと、栄さんのことを知りたいなって…それでオーサキへと…あ、会いたくて…」

私がオーサキへ行く理由は本来なら憂鬱な業務だけ、それをこんなにワクワクする時間に変えてしまったのは他ならぬ栄さんが居たからだ。

「目、が、あの…じいって見られると緊張して、ドキドキして、笑い声とか…聞けるとレアというか嬉しくて…か、構ってもらえると意識しちゃうんです、す、好かれてるのかなって思ったらもっと会いたくなって…あ、あの、」

「うん」

スッと立ち上がった栄さんの顔は暗くてよく見えない。

 でも目が慣れてくると彼はうっすら笑って自然に目が細まっていた。


「栄さん!」

「はい」

「あの、か、彼女とか、いますか⁉︎」

「え、そこから?」

「だって」

「ぷふっ…いない、いないよ」


 あぁまた笑ってくれた。

 寒空で冷えた私の頬を両手で挟んだ栄さんは少しかがんで覗き込むようにして、

「美羽ちゃん、付き合ってよ」

と尖った鼻先をちょんと私のそれにくっ付けた。



「は、はい、さ、先越された…」

「こういうのは男から言わせてよ」

「結構、メンツとかこだわるタイプですか?」

「まぁね」

 それも男らしくって素敵です、でも宇陀川に敵わない小物感も嫌いじゃないです…思っただけなのについ口に出してしまったら栄さんはバツが悪そうに頭を掻いて、

「まだまだなのよ」

と私を抱き締める。


「……あったかい」

「うん…美羽ちゃんさ、いっつもちょこちょこ動いて可愛いんだよ」

「小さいので」

小動こゆるぎだけに?名は体を表すって言うけど…マジウケるわ」

 もはやそれは言われ慣れた文言だ。

 狙って小動家に生まれた訳ではないので手柄にもならないが覚えてもらいやすいし得はあると思う。

 しかしまた飛び出した「可愛い」に照れが出て、ちょっと言葉が崩れたのも若者らしくてきゅんとした。

「失敬な」

「ごめん、それもあるけどさ、なんか走ってるのとかコマ送りみたいで面白いしドジっ子っぽいし…物食ってる時なんかすげぇ可愛い…色々食わせたいって思っちゃうよ」

「でも次は割り勘にしましょうね」

「……ぷふっ…そうね、うん…そうしよう…」


 しばらく抱き合った私たちは通行人の足音にビクついて体を離し、私の車へと入りここでやっと連絡先を交換した。

 そして心の安定材料になればとスマートフォンのメッセージアプリからメールボックスから電話帳から全て開示して、『ウダガワ』の『ウ』の字どころか悲しいほどに男っ気の無い生活であることを証明することに成功する。


「ほら、全然連絡も取ってません」

「美羽ちゃん、モテないの?」

「モテませんし…彼氏もこれまで1人しかいたことありません」

「へぇ」

「栄さんは?」

「片手で足りるくらいよ。転勤で疎遠になってね…半年は独り身かな」

栄さんもアプリを開いてスクロールして、直近のトークルームが仕事関連ばかりであることを見せてくれた。

 通話履歴も同様で上司と部下との記録ばかり、こうも色の無い生活とはねと顔を見合わせて笑ってしまう。

「じゃあ…お互いこう…タイミングが良かったんですね」

「そうね、ラッキー」

「…嬉しい」

「俺の方こそ」


 カーステレオのライトが照らす中で私たちはそれとなく顔を近付けてまつ毛を伏し…

「美羽ちゃん、いい匂いだね」

「栄さんこそ」

香ばしい初めてのキスを交わした。



つづく
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