仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

茜琉ぴーたん

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「歩夢さま、どのようなドレスに致しましょうか」

屋敷のリビングで、俺はパンフレットを開いて歩夢嬢に掲げる。

 社長が取り寄せて渡してきた式場のそれらには、イチオシのドレスや打掛の写真がたくさん載っていた。

「お客さまのリストが先……どんなのが似合うと思う?」

控えめに笑う歩夢嬢の顔色が、少し明るくなった気がする。

 俺は有名デザイナーが手掛けたというウエディングドレスを指して、

「こちらなど、歩夢さまの可愛らしさが引き立てられてよろしいのではないでしょうか」

とお勧めしてみた。

 正直、どのドレスも違いは分からない。

 どれが彼女に似合うかも見当が付かない。

 しかし目を輝かせる彼女がチャーミングであることは確かなので、俺はニコニコと次々にページをめくる。


「わぁ…キレイね」

「歩夢さまにも、きっとお似合いになりますよ」

「……橘は、お世辞が上手いわね」

「本心ですよ、どのモデルさんより歩夢さまがお美しいです」

 おっとこれは言い過ぎたかな、おとがめを覚悟して歩夢嬢を見る。

「……」

テーブルの向かいには頬を真っ赤に染めた婚約者が、もじもじと口の端を震わせていた。

「歩夢さま?」

「あ、あんまり褒めるから…恥ずかしくなっちゃったじゃない…いやぁね、橘ったら」

「…謙遜…いえ、まぁ良いです」

 俺を信じて何でも鵜呑みにするんだから世話の焼けるお嬢さまだ。

 残念だが性悪な奴に引っ掛かってしまったな、しかしそれにも気付かず過ごして行くのだろう。

 善良ではなく小悪党な執事、足りない者同士きっとお似合いだ。


「橘、幸せになりましょうね」

「……」

「何よ、何か返してよ」

「いえ、てっきり『幸せにしてね』と仰ると思ってましたので」

「夫婦は共同作業なのよ、ただでさえ仕事を支えてもらうんだから…私だって橘を助けて、補えるところは補っていきたいのよ」

 寄り掛かって幸せを享受するだけではないのだな、共に歩みたいというその意志が心を打つ。

「……」


 掃除を終えてリビングを横切る使用人さんが、微かに笑みをたたえて台所へ消えて行った。

 お茶のお代わりの用意を始めたのだろう、カチャカチャと陶器の擦れる音がする。

「ご立派です」

「ありがと」

「…歩夢さま、」

「なぁに、……ぁ」

 お茶が運ばれて来る前に、俺は身を乗り出して歩夢嬢の唇を奪った。

 数メートル先の台所には数人の使用人さんが居るというのにこのムーブ、歩夢嬢は当然目をまん丸にして固まる。

「た、ちばにゃ…」

「何でしょう」

「な、何でしょうじゃないわよ、…すぐそこに北埜きたのさんたちがいるのよ、見られたら…」

「ドキドキ、しますでしょう?」

 隠れてこっそりもまだ好きだろう、不敵に笑えば困り眉毛が段々となだらかになっていく。

 もう俺はこれくらいの背徳感や刺激しか与えてあげられないが、平穏なカップル生活でも飽きずに好き合っていけるだろうか。


「…もう、」

 ふんわりフルーティーな香りが俺の過敏な鼻先を覆う。

 歩夢嬢は台所を確認しながら首を伸ばして、

「最高にドキドキするわ、橘」

とキスを返してくれた。



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