仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

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「…橘、エッチ、したくない？」

「したいですよ、入籍したらハネムーンでしっかり致しましょう」

「ハッキリ言うわね…まぁ、飽きないでいてくれると有り難いわね」

「飽きませんよ、ここまで欲した初めての相手ですから」

　ゆっくりと旋回せんかいして、車を二階堂邸の玄関前に着ける。

　この後は社長から言いつかった招待客を見繕う作業に勤しむとしよう。
　
「どうかしら、若いうちに燃え過ぎちゃって、もうそれがピークだったりしてね」

「釣った魚に餌はやらないというやつですか？自ら釣った感は薄いですが大切に致しますよ」

「…うん」

　歩夢嬢はロマンチックに弱い。

　体は純でもないくせに、精神はまだ乙女なのだ。

　乙女は二股なんてしないという正論はさておいて、王子さまに侍られるお姫さま展開への憧れを持っている。

　これから俺がキラキラで気障きざな振る舞いを完遂できるかは分からないが、無理のない範囲で続けようとは考えている。

　一人称からして猫を被っている俺だが、思っていることはほぼそのまま伝えるようにしているので素を見せて今さら幻滅されるということもあるまい。

　口が悪く性格が捻くれているのも俺だし、歩夢嬢を大切に思っているのも俺だ。

「して欲しいことは正直に仰って下さいね。貴女の望みはできるだけ叶えて差し上げたいので」

「悪いことでも？」

「二股以上の悪事が、貴女にできるのなら」

「もう、うるさいわね……そういや高梁くん、恋人と仲良くしてるらしいわよ。友達から聞いたわ。……私、悪いことをしたのに責められずに逃げるなんて卑怯なことしちゃったわ」

いざ責められたら嫌なくせに、歩夢嬢は殊勝な面持ちで車から降りた。


　いい加減蒸し返すのも終わりにした方が良いのだろう。

　裏切りを知らずに終われた高梁くんは、歩夢嬢のことだって美しい青春の思い出として心に刻んでいるだろうし。

「（でも、わざわざ言っちゃうんだよなぁ）」

　根は真面目な歩夢嬢の、良心が傷んでいる様子は見ていてゾクゾクするものがある。

　秘密を持つ女の陰とでも言うのか、天真爛漫なだけのお馬鹿お嬢さまよりずっと魅力的に感じる。

　経験は彼女の人生を複雑にして、深く重く厚くした。

「（勉強以外のことをこんなに教えるつもりは無かったんだけどな）」

　俺も、彼女と関わることで人生が変わった。

　元々が善人ではないが、それに少しでも戻れるように徳を積んでいかねばなるまい。

　淡々と、しかし着実に愛情は大きく育っている。

　尊い愛をくれた歩夢嬢に、俺は感謝して報いたいのだ。

　そこそこ楽しい暮らしを乱してくれた、カラフルに彩っては散らかしてくれた彼女への俺なりの恩返しだ。