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「…あまりに…女性に対して誠意が欠けているのではないですか」

 歩夢嬢じゃなくても良かったのだろう、こんな考えの奴の元に送り込んでしまった自分にも嫌気がさす。

 せっかくヨコハマファン同士意気投合したのにもったいない、一刻も早く歩夢嬢を引っ張り家に連れて帰りたい。

 渋い表情になった俺を見た和臣氏は、しかし余裕そうな顔で

「どうして私が歩夢さんと共闘しようと思ったのか教えてあげましょうか」

とニンマリ笑う。

「え?」

「食事の席に着いた時点で、兆候はあったんですよ。やけに淋しげに見つめておられた。そして出て来る話題はほとんどに関わることばかり」

「…あの、歩夢さまから失礼がありましたでしょうか」

 マナーに問題があったろうか、卑しい人間だと足元を見られたのか。

 見合いに本気で臨んでいないと初っ端からバレていたということだろう、二階堂家の品位は落としてはなるまいと弁解の余地を探る。

 しかして和臣氏は「いえいえ」と手を振った。

「橘さん、歩夢さんは終始貴方の話をしておいででしたよ」

「はぁ…?」

「別室に移動した橘さんの背中を愛しそうに、しかし淋しそうに追っておられました。貴方との出逢いの話ですとか、貴方を褒める言葉や…文句や愚痴も含めてね、とにかく橘さんの話題ばかりでしたので…歩夢さんは橘さんのことが好きなのだろうと。そうしたら僕たちと境遇が同じではありませんか、ですから提案をした訳ですよ」

「……仲人さまには」

「どうでしょうね、バレているかもしれませんが…そうなればお見合い話は来にくくなるのではないですか?マッチングさせても成功率が低いのでは仲人の腕が悪いのだと思われてしまいますし…都合がよろしいかもしれませんよ」

 それはそうだろうが、しかしこれまでの見合いで歩夢嬢はそんなに俺のことをアピールしていなかったように思う。

 何がどうして今回、俺との仲良しエピソードをそんなに披露してしまったのだろう。

「……」

「歩夢さん、ご自身の品位を下げてでも見合いを破談にしたかったのでしょうね」

 ハッと和臣氏の方を見れば、穏やかな視線は俺に向いていた。

「余計に…お見合い話が回って来ないように…?」

「あるいは、僕から断らせるように。もしくは…橘さんとの関係を公にする覚悟ができていたとか…ですかね。その辺りはお話してみてはどうでしょうか」

 ここらで別順路を通っていた女性陣がロビーに戻って来て、和臣氏の暖かな視線はそちらに注がれた。

「……城廻さま、うちの…歩夢さまの最後のお見合いが、貴方で良かったです」

「こちらこそ」

 俺たちは固く握手を交わして、それぞれのパートナーの元へと駆け寄るのだった。
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