上 下
97 / 117
10

93

しおりを挟む

「…私以外に、歩夢さまを操れる男がおりますか?」

「仕事はともかく、旦那さんには操られたくないわ」

「言葉が悪うございました。こんな風に小気味の良いやり取りをしたり、言われるままに貴女を抱いたり、面と向かって注意をしたり…できる男がおりますか」

「いないわ。少なくとも、私を抱いていいのは橘だけよ」

 二股していたくせになんて言えばこの話は流れるんだろうな、この期に及んで歩夢嬢の困る顔を見たいなんて俺は相当に捻くれている。

「偶然に家庭教師に選ばれて、貴女を良いように使った私をパートナーと認めて頂けませんか」

「橘、私が貴方を良いように使ったのよ。認めて欲しいのは私の方だわ…橘、貴方は私の男よ。どういう形になるか分からないけど…お父さまは説得するわ」

 俺の行く末は取締役か自主退職か。

 温厚な社長だから解雇は無いと思うが…信頼を裏切る人間に会社を任せることはできないだろう。

「…禁じられた関係に陶酔しているだけでしょうか」

「他人から知り合いになって情が湧いて愛が生まれたんでしょう?それを一般的に運命と呼ぶのよ」


 俺たちはほのめかすこともなく、立ち上がりベッドへと倒れ込んだ。

 そして逃がさないようにキツく抱き締めて…初めて唇と唇のキスをした。

「……」

「ん♡」

 ちゅっちゅと口付けを交わして頬擦りをして、くすぐったり尻を揉んだりとセックス未満の触れ合いに勤しむ。

 今後のことを本格的に詰めねばならないし、形だけでも和臣氏に礼状を書かねばなるまい。

 カゴの中の鳥じゃあるまいし時代錯誤なのだ、けれど周りを巻き込まないために現実的なプランを立てねばならない。


 しかし心を許すとはこんなに気持ちの良いものなんだな、両想いのもうひとつ先に踏み込めたようで有り難く尊い気分である。

 まぁいつもと違いセックスをしていないから、万が一誰かが近付いて来ても復元しやすいという安心感もあるのだろうが。

「口付けは数年ぶりです」

「私も」

「…高梁たかはしさんとですね、消毒しましょう」

「いつまで元カレの話してるの…執念深いのね」

 元カレか、そんな表現をしたことが無かったからピンと来ない。

 俺は結局彼の制汗剤の匂いとプリントシールのぼやけた顔しか知らぬままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...