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しおりを挟む「…ですから、歩夢さまのご結婚が近付いているのだと実感して、」
「寂しいの?」
「寂し…いえ、それもありますが、」
「橘。貴方、いつも私に任せて本心を言葉にしないわね。私が『お見合いをぶち壊して』と言ったらしてくれた?」
「…しますよ、したでしょうね」
ひと言「私を奪って」と言ってくれればそうする。
だって命令だ、やれやれ顔で手を引いて駆けてやる。
社長にだって「これが歩夢さまのご意向です」と…自分の意志ではなく、あくまで彼女発信の行動だと保険を掛けて説得に当たる。
大冒険はしたくないんだ、俺は臆病なんだ。
今も彼女と目を合わせつつも、彼女から「抱きなさい」と指示を出してくれることを願っている。
「ならハッキリ言いなさいよ。自分がどうしたいのか」
いい加減に歩夢嬢も俺の性分を分かってきたのだろう、何もかもを自分のワガママとして扱われるのに納得がいかないようだ。
「…歩夢さま、いえ、」
「橘、私からは要求は言わないわよ。その代わり命令よ、何をして欲しいのかハッキリ言いなさい」
「……」
スーツを掴む手が震えている。
彼女だって、「和臣さまと幸せになって下さい」と俺が言う可能性を捨ててはないのだ。
これだけお膳立てをしておいて目論見が外れればさすがに恥ずかしいだろうし、悲恋を美談に変えられるほど彼女は手練ではない。
「橘、私、お嫁に行っちゃうわよ。困るでしょ?」
俺よりも大きな涙粒がぽろぽろ溢れる。
「こま、ります」
「言ってよ、命令よ…橘、」
俺から好かれている自信はあるのに確証には足りないんだな、可哀想に。
それというのも、俺がろくな愛情表現をせずに指示待ちで冷めた対応ばかりしたせいだ。
体で伝わることと言葉で伝わることはどちらが多いのだろうか、聞けば「言葉に決まってるじゃない」と怒るだろうか。
「歩夢さま、」
涙と鼻水でぐずぐずの俺は、彼女の手を剥がす。
そして右手を取り跪いた。
「歩夢さま、私は貴女を自分のものにしたい。お嫁になど行かせたくありません。私が、支えます。貴女をここまでのレディにしたのは半分は私の功績だと思っております」
「ぷふっ」
目を細めて笑えば絞り出された涙がつるつる頬を流れる。
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