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しおりを挟む「アユミさん、貴女、選べる立場じゃないでしょう」
「まだ20代も前半ですし、焦ってはおりません。申し訳ありません、こちらが望む条件と合致しないようですので辞退させて頂きます。私、父の後を継ぐつもりですので。それと、お見合いにお母さまがいらっしゃるのは別段構いませんけれど、当初の約束を平気で覆し反故にされるというのに不信感が湧きまくっております」
頑張れ歩夢嬢、言葉がヘンテコになってきているが走り切るんだ。
しかし彼女に全てを言わせて良いものだろうか、ますます仲人業界で悪名が轟いてしまうのではなかろうか。
「あ、貴女、生意気よ!」
「言いたいことは主張させて頂きます……とにかく、今回はご縁が無かったということで。橘、失礼しましょう」
「かしこまりました、歩夢さま」
椅子を引いて立たせてやれば、歩夢嬢は両足を踏ん張って凛と背筋を伸ばす。
そして
「お見合い相手の名前も覚えてらっしゃらない方の所には、とても不安で嫁げませんわ。あと…香水、浴び過ぎじゃありませんこと?料理の味も分かりませんでしたわ…フレグランスはさり気なくが気品ある女性のマナーではないかしら…失礼」
とワンピースの裾を翻した。
それから俺たちは颯爽と、臭い部屋を後にした。
廊下にもよくよく匂えば香水が香っている。
行きは気付かなかったが、俺が歩夢嬢に気を取られていたからなのか。
それとも、富野母が室内で追い香水をしたから部屋だけ異様に匂ったのか。
どちらでも良いか、鼻腔に残る香りを忌々しく感じつつ車へと戻る。
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