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「初めまして、歩夢さん」

これは本日の見合い相手、富野とみの氏だ。

 28歳で、輸入業を営む会社の時期社長である。

 顔は見合い写真にあったので知っていたが、割とハンサムというか爽やかで純真そうな青年だった。


「こんにちは、可愛らしいお嬢さんね」

こちらが挨拶する前に口を開いたのは彼の隣の太った女性…富野青年の恐らく母親か。

 よくいるマダムという感じ、しかしピンクのセレモニースーツは年齢相応ではないのかなと…失礼だがそう思った。

 そしてこの部屋に充満する香りはこのマダムから発せられているのだろう、一歩一歩近付くごとに鼻の細胞が奮い立つのが分かる。


「初めまして、二階堂歩夢です…」

「執事の橘です。申し訳ございません、本日は当人お二人のみと伺っておりましたので当主の二階堂は連れて来ておりませんが」

混乱する歩夢嬢に代わり、俺も匂いを我慢しつつ椅子を引く。

 これまでの見合いでは、二人きりのものもあれば当然親同席の古典的なものもあった。

 格を合わせねばならないので参加者は事前に知らされて然るべきなのだが、今回は当人だけと言われていたはずだ。

「はい、ですがお母さんがどうしても一緒に来たいとのことで、見守ってもらおうと思いまして」

「…そうでございますか」


 富野青年は母親を愛してらっしゃるのだろう、それはよく伝わった。

 歩夢嬢も察するものがあったのか、腰掛けてから目が泳ぎ始める。

 1対2では分が悪かろう、俺はどうしてかまとめる予定の見合いなのに対決構造を描いていた。

「では、私もこちらに控えさせて頂きますね」

俺は部屋の隅に予備で用意してあった椅子へ掛けさせてもらった。
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