仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

茜琉ぴーたん

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番外編・1

お手伝いさんは見てた・3

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 そんなこんなで時は過ぎて、歩夢さまは無事短大生になられた。

 それもこれも橘さんが根気強く教え込んでくれたおかげ、私たちも合格祝いでは盛り上がったものだ。

 そして彼はただの家庭教師から付き人に昇格、平日のほとんどを歩夢さまに捧げる生活となった。

 彼はいまだに二階のお手洗いで自慰をしているのだろう。

 彼が使った直後は特有の匂いがする。

 本人は気付かないのが滑稽こっけい、まぁ指摘したところで双方恥ずかしい思いをするのだから黙っておいた。


 そうこうしていて半年ほど経った頃。

 橘さんが訪ねて来るにもかかわらず、お手洗いのあの匂いの発生頻度が下がった。

 私たちもそればかり気にしている訳ではないのだけれど、「恋人でもできたのかしら」「枯れたのかしら」なんてヒソヒソしたものだ。

「朝からここに来て学校に送って、それから出社して仕事、学校が終わる頃に迎えに行って、お稽古に送って、ここに送って復習と課題を見て、また会社戻って仕事して……恋人なんてできるかしら」

「単純に、叶わぬ恋を諦めたら性欲も失せちゃったんじゃないの?」

「でもたまに匂うのよ」

「我慢できるようになったのかしら」


 そして「いい人ができたの?」なんて世間話程度に聞いてみようかしら、と言っていた数日後…私は聞いてしまった。

 押し殺した悲鳴みたいな歩夢さまの喘ぎ声と、水気を帯びた肉が打ち合う音を。

 盗み聞こうなんて思ってはいなかったのだけど、廊下の端の電球が切れかけているからと交換に上がった時に歩夢さまの部屋から漏れ聞こえてきたのだ。

 勉強の邪魔をしてはいけないと時間をかけて静かに動いたからこちらに勘付かなかったのだろう。


「……!」

 息を潜めて床板がきしまぬようゆっくりと通過して、本来の職務を気もそぞろになりながら片付けた。

 それからまたゆっくりと扉の前を忍び通れば、クライマックスが近いのか歩夢さまはなんとも甘い声で橘さんの名を繰り返していた。

「(ふたりは…愛し合ってる…?)」


 そういえば、数日前に歩夢さまがやけに大きな声で「橘ぁ!」と叫んだことがあった。

 何事かと急いで駆け付ければ、レポートの指導に反発して叫んだのだと橘さんが苦笑しつつ教えてくれたのだが…あれもそうだったのかもしれない。

 さて問題だ。

 隠れて自慰行為をするくらいは許していたが、主に手を出しているとなれば橘さんの処分は免れないだろう。

 進学させた功労者とはいえ、愛娘のこととなれば旦那さまもお怒りになるだろうし会社もクビになるかもしれない。
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