仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

茜琉ぴーたん

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 それから数日のうちに、歩夢あゆむ嬢と俺の交際・結婚のニュースは社内を駆け巡った。

 発信源は他ならぬ社長で、店舗はともかく本社勤務の俺はすれ違う人々から色んな反応を受けた。

 同期には「上手くやりやがったな」「どうやって取り入った」なんて悪態を吐かれたものの、基本的に皆祝福ムードだったので助かった。

 家庭教師を始めた頃の俺の苦悩っぷりは周知されていたし、将来の雇用主である歩夢嬢を短大に入れた功績はそれなりに評価されていたし。


 歩夢嬢にも聞いてみたところ、店舗では俺の姿はそこまで浸透していないのでまんま社内政略結婚だと思われているみたいだ。

 実際には関係を深めてからの交際なのだが、見合いだと思わせていた方が説明が楽なのかもしれない。


 ちなみに社長は一刻も早く入籍をと急いでいるようで、諸々の準備をして数ヶ月のうちにはと話が進んでいる。

 どうも、せっかくの良い話を流れさせては堪らないとヤキモキしているらしい。

 そして縁談を取りまとめる仲人界隈では、「連敗続きの二階堂にかいどうの令嬢は、ついに手近な所で手を打った」と揶揄されているそうだ。

 こんな悪名も一種のみそぎなのか、意外や歩夢嬢は嫌がりつつも得心していた。

 犯した罪へ数年越しではあるが罰を与えてもらって、スッキリしたらしい。

 経営者の婚活事情が業績に関わってくるかどうかは今後の俺たち次第だ。

 まぁ社長がまだまだ現役なので歩夢嬢がトップに立つ日は当分先だろう。

 それまでにしっかり勉強して経験を積んで、彼女を支えなければいけない。


 ところで俺たちの交際についてだが、相変わらず移動中と二階堂邸でしか触れ合いが無い。

 二人の雰囲気も若干空気が柔らかくなったくらい、基本的にはお嬢さまと執事のスタンスである。

 情事に関しては、逆に機会が減ってしまった。

 好き合っていることを公にしてしまって、二人で個室に籠ること自体がやましいことになってしまったのだ。

 これまで見逃されていたのだから良いだろうとも思うのだが、何もしてない日も「何かしていても不思議ない」と疑われるのが不本意なのである。

 なので、交際発表後はリビングで作業することにした。

 仕事に関わること、お稽古事の予習復習、とにかくお手伝いさんなどの人目がある所での触れ合いに留めた。

 だがもちろん、文字通りの触れ合いなんてできやしない。

 ちょっと目配せをしたり、ライトな世間話をしたりするくらいだ。

 その代わりと言ってはなんだが、送迎の車内での会話の甘さは数段アップした。

 ことあるごとに「好きよ」「お可愛らしい」なんてやり取りをしている。

 あれだけ頻繁にセックスをしていたから持て余した体が辛くはあったが、半月もすれば賢者の心持ちでおさまった。

 休みの日にちょっと休憩、なんてできなくもないのだが…歩夢嬢もそこまでは求めていないらしい。

 帰宅後に電話やメールで『イチャイチャしたいわ』と口にはするが、がっついていると思われたくないのか本当に淑女になったのか実に大人しいものである。

 ただれた生活を卒業して模範的なレディになってくれたのだな、俺は教育の成果が発揮されて嬉しいやら物足りないやらでもどかしい日々を過ごしている。
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