仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

茜琉ぴーたん

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 数日後、美術館デートの日。

 和臣氏は先日の秘書くんとは別の、女性秘書さんを連れていた。

「初めまして、浦船うらふねと申します」

「初めまして、橘です」

浦船さんは所謂『秘書モノ』みたいな色気のある女性で、しかし知性というか気品が溢れていて所作にも育ちの良さを感じさせる。

 休日扱いだからなのかピッタリとしたスーツではなくて、緩めの長いシャツワンピースを纏っていた。

 彼女と同伴したということは和臣氏の恋人ということなのだろう、絶妙な距離感につい目が行ってしまう。

「二階堂さん、彼女が私の婚約者です」

和臣氏は浦船さんを引き寄せて、大胆にも腰に手を回した。

 そして

「ギリギリまで延ばすと言っていたのに申し訳ないんですが、我々の作戦は早めに終わりそうです。実はもう入籍間近で…お腹に、子供ができたものですから」

と、ちっとも申し訳なさなど匂わせず告げた。

「わぁ、おめでとうございます!」

「恐れ入ります…ですから二階堂さん、数日のうちに私はこのお見合いを破談にさせて頂きます。もちろん、私側の有責という形で構いません…すみません、もっと長く協力できれば良かったのですが…予想より早く念願叶いましたので」

「いえいえ、充分です」

それでも普通より半月は長く見合い期間が延びたのだから、歩夢嬢にはさほど問題ではなかった。

 初めて実りそうだったのに相手の不義で破談になって、と悲劇のヒロインぶることでさらに次の見合いまでのインターバルを稼げそうである。

「(とはいえ、早い方が良いんだろうな)」

それはもちろん、俺が社長に「娘さんと結婚させて下さい!」と訴える日のことだ。

 あまり先送りにしても結果は変わらないだろうし、これから取り入って懐柔なんかもできないだろうし。

 誠意をもって、正直に話した方が良いのだろう。

 たとえそれで俺が路頭に迷うことになっても…逃げずに闘った実績で俺は前向きに生きられるはずだ。

 当然、一番良いのは認めてもらって共に取締役に入れることだが、最悪のパターンを想定しておかねば落ち着かないのは保険張りの情けない癖なのであった。
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