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しおりを挟む駐車場に戻って運転席のドアを開けると、乗っている時は気付かなかったのに充満した歩夢嬢の香りがぶわっと噴き出した。
「(……あ、やべ)」
例に漏れず大興奮だ。
こんな所で案件を起こしたら社会的どころか人間的に死んでしまう。
素早く乗り込んでエンジンを掛けて、人の少ない駐車場を探した。
「あー、やべ、マックスだ」
一応勤務時間中なので自宅には帰れない。
かと言って会社にも二階堂邸にも行けやしない。
「お、そこだ」
節電でまともに明かりの点いていないパチンコ屋を見つけ、立体駐車場へと滑り込んだ。
「…隠したらイケるか…」
どうか見つかりませんように、と暗がりで熱り立った己を解放し扱く。
漂う歩夢嬢の香りはいつものトイレや彼女の部屋よりももっと薄いのだが、車の芳香剤が混じったために俺の興奮をぐんと跳ね上げてくれた。
なんせ俺はプレーンの歩夢嬢スメルだけではもう抜けなくなって来ている節がある。
紳士がハンカチーフにちょこっと吹いておくみたいなクールかつフローラルな匂いがスパイスの如く歩夢嬢の香りを引き立てる。
「んー…良いねぇ」
高梁くんの制汗剤とはまた違う匂い。
車持ちの大人の男に抱かれた後の歩夢嬢の隣に居るみたいだ。
「あー…たまんね…」
短大生になれば歩夢嬢は付き合いも広がって彼氏が代わるかもしれないな、その彼とこうして車の中で乳繰り合ったりするかもしれない。
情事を覗き見てるみたいだ、俺はつくづく特殊性癖の持ち主らしい。
「はぁ…あー、あー…出る、んあ、」
俺は香りに興奮してはこうして自慰行為をしてしまう訳だが、最中に何を考えているかというとセックスそのものを想像している訳ではない。
いつも漠然とした『興奮』の塊みたいなモヤモヤした概念を脳裏に浮かべて、シコシコ手を動かしている。
自慰は自慰であってセックスの代用ではないし、セックスの練習でもシミュレーションでもない。
だから歩夢嬢の顔は浮かんでもそれ以上の情報は関与して来ないのだが…今日は違った。
「あ、ゆむ、」
リッチな香りを纏った男に抱かれる彼女、それを寝取る俺。
複数プレイがしたいなんて考えたことは無いはず、だから戸惑う彼女の手を引いて男から離れさせてぶっ刺す。
「あー…歩夢さま、歩夢、あ、あ‼︎………あー…何してんだ、俺…」
だくだくと手の中に噴射された瀞みの匂いに顔を顰めてティッシュを探る。
拭き取っても手は臭いしやっちまった感に居た堪れない。
借り物の車で何をしてるんだ…彼女の香水の中にイカ臭い匂いが混じって気持ちが悪い。
しかしそうするとまるで歩夢嬢が精液に濡れているみたいにも思えて興奮せんこともない、いや汚いことを考えたくない。
考えては自分で突っ込んで、芯から冷静さを取り戻した頃に俺はまた学校へと戻ることにした。
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