仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

プロローグ

1

　それは突然でもなくどちらかと言えば慣れたお知らせ。

「歩夢あゆむさま、来週末にお見合いが決まりました」

と聞かされても彼女…二階堂にかいどう歩夢嬢は揺らがなかった。


「そっか、誰と？」

「県議会議員の城廻しろめぐり和臣かずおみさんです。お父さまは国会議員の伸夫のぶお氏、お爺さまは大臣も務められた太郎たろう氏です。和臣さんもゆくゆくは国政に出られると…お爺さまは息巻いてらっしゃるみたいですね」

　スケジュール帳をぱたんと閉じ、俺…橘たちばな瑛太えいたは歩夢嬢の首元のリボンタイをしゅるり解ほどく。

　俺は彼女の秘書でお世話係的な存在で執事みたいなもの、上からブラウスのボタンをぷちぷち外して袖を抜かせる。


「ふーん…議員先生がわざわざうちと？何かの政略？」

「向こうも色々とお調べ済みだと思いますが…婚姻後にうちの業績が急上昇でもすれば癒着など疑われるかもしれませんがね、まぁ無いでしょう。そんなもの無くとも経営は安定してますから」

「そう…あ、イメージ戦略かな？地元企業と繋がってれば票が取れるとか」

「それも込みでしょうかね…いずれにしても歩夢さまがお眼鏡に適ったのではないですかね？ふふ」


　二階堂家は神奈川を中心に関東・東海地区に大小50店舗以上を構える百貨店・『百貨ニカイドー』の創始者一族である。

　主要駅の近くには必ずと言って良いほど展開しており、進物だったりデパートコスメだったり『ちょっと良いもの』を買い求める客でいつも賑わっている。

　郊外にはスーパーマーケット・『ニカイマート』としても出店しており、輸入品のチーズや珍しい野菜など庶民生活に彩りを与えてくれるようなお洒落な品揃えが人気だ。


　そのご令嬢・歩夢嬢は現在24歳の下っ端社員で、ゆくゆくは経営陣に入る予定だが今のところ現場にて実務を学んでいるところだ。

「お眼鏡って…ちゃんとした人なら、私のお見合い遍歴くらい調べてるでしょ」

「そうでしょうね」

「……」

「向こうさんも切羽詰まっている、とか」


　実は彼女はこれまでに10回は見合いを受けており、その全てにおいて相手側から断られている。

　二階堂家が言い出したのではない、男性側からの申し出なのにも関わらず断られたのだ。

　理由はさておき見合いをした事実は人伝に広まっていき、歩夢嬢はまるで地雷かのごとく結婚不適合者として仲人なこうど界隈で名を馳せていた。

　なので彼女は議員先生たるお方が私で良いのだろうか、と心配しているのである。


「どうせまた…断られるんでしょ？」

「予測ではそうですが…案外、気に入られるかもしれませんよ」

俺は肌着姿にした彼女の腰を抱き、自身のネクタイを緩めた。