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11(最終話)*

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 翌々日、ミサはピルを処方してもらっている婦人科を受診した。

 内診してもらうと結果はやはり妊娠していない状態、だったそうだ。


「ネットで見たのと同じ、経血が溜まってなかったから出て来ないんだって。大騒ぎして馬鹿みたい」

「まぁまぁ。そうか…でも落ち着いたな」

「うん…それでね、来月…手術することになったの」

「ん、休み取ろうか」

「ううん、もう次のシフト出てるでしょ、大丈夫だから」

 遠慮しなくても良いのに、ミサはスッキリした様子で夕飯をパクパク片付ける。


 元気になったなら良かったな、俺は足元の仕事用トートバッグからファイルを取り出して掲げた。

「…ミサ、食べ終わったらこれ、書こうぜ」

「…婚姻届……うん…分かった」

「これ出したら、もうミサは俺のもんだぜ」

「成昭さんが、私のものなんだよ」


 永遠に終わらない水掛け論を交わして、穏やかな夜が過ぎて行く。

 指輪くらいは買おう、家はこのままで良いや。

 今のうちに蓄えて、ミサと楽しい老後を過ごす準備をしなきゃならない。


「普通の夫婦みたいだな」

「一通り、やることやっちゃったしね…生き急いだのかな、年寄りになっちゃったみたい」

「まだ枯れるには早い」

「私、また病むかもだし訳わかんないこと急にするかも」

「誰しも気まぐれな行動ってのはあるだろ…臨機応変な対応力ってのが鍛えられて良いわ」

「…もうエッチ出来るよ、掘ってあげようか」

「…ミサがしたいなら」


 人間、歳を取ると丸くなるものだ。

 欲が減退してきて心は広くなって。

 諦めが上手になって考えることが多くなって。

 人のお手本になるような立派な生き方は出来なかったけど、人様に迷惑かけずに生き抜けたら褒められても良いかもな。


「成昭さん、これからもよろしくね」

ミサは、穏やかな顔で微笑む。

「末長くな、よろしく」

 俺は右手を差し出して、誘い出された白い手をギュッと握るのだった。



おわり
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