跳ね馬の恩返し—元ヤン娘は商店街の華になる

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「…親父？」

「おう…おかえり…」

　力無い返事、和樹は真綾に警戒しながら父親に近付く。

「どした、また腰か？」

「あぁ、雨が降り出したろ、表の側溝のフタでズルッといっちまってよ、よろけた拍子にギックリよ」

　駐車場の仕入れ用の車に箱を積み下ろしでもしていたのだろう、確かに溝の上の金属製の板は水捌けが悪くて滑りやすい。

　元々は滑り止めの模様が付いていたのが、使っていて滑らかになり用をなさなくなっていた。

　和樹も滑ったことはあるし、そのうち替えなければとは思っていたがそのままにしていた。

「はぁ、大変だったな…んで、白銀さんはどうして？」

「通り掛かったんだよな、ちょうど俺が悲鳴上げたとこに」

　弱々しい父親のフリを受けて、真綾が話し出す。

「そこの通りを走ってたら『あー‼︎』って声がして、おじさんがうずくまってて。ここに運んで、休んでたとこ」

「はぁ、そりゃありがとう…親父、病院行くか？店はお袋がいれば大丈夫だろ」

　父親は

「慣れてるから平気よ」

と親指を上げ、しかしクタッとその手を下ろす。

　父親は腰痛もギックリ腰も何度も経験しており、大騒ぎするほどのことではない。

　しかし年々治りは遅くなっているし和樹も心配ではあった。

「そう…白銀さん、ありがとうね。ここはもう大丈夫だから…仕事は？」

「今日はお休みだから。じゃあね、おじさんお大事に」

　父親は「ありがとうね…」と背中で挨拶をして、真綾は玄関へと歩き出す。

　和樹は彼女の後を追い、玄関先まで見送ることにした。