自己評価低めの彼女には俺の褒め言葉が効かない。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
25 / 30
おまけ

パートさんは見た

しおりを挟む

 とある商品管理室での話。

 私は家電量販店の1階にある事務室で伝票整理や登録の仕事をしている主婦である。

 社員ではなくパートで、宅配便の受け取りや入退店者の荷物チェックなどもさせてもらっている。

 スタッフは他に3名、在庫を収める力仕事メインの男性が1人と、私同様に事務作業を行う女性が1人、そして暫定室長扱いの男性が1人。

 男女ペアで1日を回すのが通常で、日によって2人だったり3人だったり偏りはある。

 女性スタッフ…宗近むねちかさんとは私的な話をするほど特別仲が良い訳ではなく、同室で作業をしていてもポツリポツリと他愛無い世間話をする程度だった。

 宗近さんは大人しい人で、当たり前だが仕事中はあまり私語もしないし派手に笑ったりしない。

 親しい社員と交流する時にその表情を崩すくらいで、気難しい訳ではないが浮いた話など無さそうだと失礼ながら勝手に思っていた。


 それがこの秋から何かが変わった。

 隣の配送工事センターに新しい男性スタッフが現れるようになり、二人が交流を持ち始めたのだ。

 その男性は言っては悪いが人相が悪く、伸ばしっぱなしの頭髪を肩に垂らしてギョロ目で、一見不審者として足止めされても不思議無い見た目をしていた。

 彼は窓越しに宗近さんに話しかけるようになり、伝票回収から戻って二人がそうしていると私が入室を躊躇ってしまうほどに良い雰囲気になっていった。

 宗近さんは最初こそ落ち着かない風だったが満更でもない様子で、食べ物をあげたり笑顔を見せたりとその表情が日に日に華やいでいく。

 少し腹が立つのは、宗近さんが休みで私が作業している日、彼はチラと覗いてあからさまにガッカリした顔をすることだ。

 別に私に落胆しているのではないと分かっているけど、ハズレ扱いされることにはムカついてしまう。



「ねぇ、最近新しい配送の人入ったでしょ?髪の長い人」

「あー、ウツミ興業の千早ちはやさんね」

「あの人さ、うちの宗近さんにご執心みたいなんだけど、大丈夫かな?」

「いい大人なんだから大丈夫でしょ、宗近さん、そういやキレイになった気がしたよ」


 会話の相手はうちの主人、配送工事センターの山乃やまのセンター長である。

 私は主人のツテで店舗の事務パートに入っているわけだが、主人も宗近さんの変化に気付いていたとは驚きであった。


「わかる、よく笑うようになったよね…あの人も悪い人じゃないんだね」

「ちょっと悪そうに見えるだけだよ。売り場のスタッフと仲良くなる人もいるし、出入りのメーカーさんと付き合う人もいるし。配送員とそうなっても不思議はないね」

「良い話になればいいね」

「じっくりウォッチしてな、はは」


 今日も夕方になれば私は仕事を見つけて席を外す。

 ホールの掃除などしながら、宗近さんと、彼女を見つけて喜びを隠し近寄る彼の睦じい触れ合いをただ見守るのだ。

 彼女のシフト表をこっそり撮影しているのも目撃したし、彼が去った後の何とも言えない彼女の恥らう表情も見てしまった。

 これはビッグウェーブが起こる日も近い…私は事務室へ戻ろうと配送工事センターの前を通り、室内の主人と目が合ったのでグッと親指を立てて笑う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

フラれた女

詩織
恋愛
別の部のしかもモテまくりの男に告白を… 勿論相手にされず…

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

おもちDX
BL
社畜のサラリーマン柊(ひいらぎ)はある日、ヘッドマッサージの勧誘にあう。怪しいマッサージかと疑いながらもついて行くと、待っていたのは――極上の癒し体験だった。柊は担当であるイケメンセラピスト夕里(ゆり)の技術に惚れ込むが、彼はもう店を辞めるという。柊はなんとか夕里を引き止めたいが、通ううちに自分の痴態を知ってしまった。ただのマッサージなのに敏感体質で喘ぐ柊に、夕里の様子がおかしくなってきて……? 敏感すぎるリーマンが、大型犬属性のセラピストを癒し、癒され、懐かれ、蕩かされるお話。 心に傷を抱えたセラピスト(27)×疲れてボロボロのサラリーマン(30) 現代物。年下攻め。ノンケ受け。 ※表紙のイラスト(攻め)はPicrewの「人間(男)メーカー(仮)」で作成しました。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...