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11月

15・きいてない

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 帰りの車内では高石たかいし美月みつきがやたらと明るく淡路島の魅力を語ってくれて、後部座席の二人は黙ってそれを聞いているだけだった。

 ムラタの駐車場に戻ってきて解散し、知佳ちかは自分の車へ、千早ちはやはバイクへとそれぞれ分かれる。

「……それじゃ、」

「またね、」


 少し離れた所に停めた知佳が車のエンジンをかけると、美月は車のウインドウを降ろして

「うまくいったでしょ?」

と千早に笑いかける。

「…ほんまにな、姉さん、頭が上がらんな」

「いいのよ、休みの件、うまく動いてよね♡あと……チカちゃんはあたしの大事な友達なの。恋愛は自由だから好きにすればいいけど、泣かせるような真似は絶対に止めてよね」

「おぅよ」

 この2人の密談は実は2回目で、初回は鍋屋にいる間に行われていた。

 千早がトイレに立った時美月が自然に追って立ち、座敷から離れた所で千早に交渉したのだ。





『ねぇ、千早さん、チカちゃんとデートしたくない?』

『ア?………したいよ』

『あたしがうまく仕向けてあげるから、うまく行ったらタカちゃんの連休を工面してくれないかな。泊まりで旅行行きたいのよ』

『上手く…いけば。社長に交渉するわ』

『OK、悪いようにはしないから、任せてよ』





「見た目不審者、はdisりすぎちゃうか」

「千早さんの言葉も刺さったわよ…まるで見てきたかのように…お互い様。じゃあね」

「ほな、」


 知佳がゆっくりと出て、それを見届けてから千早も駐車場を出て行った。


「…んー、完全に蚊帳かやの外やった。今日の食事は俺のファインプレーやのに」

助手席で高石が、美月へわざと棒読みで喋る。

「ごめん、思ったより良い感じになりそうだったから、ちょっと手伝っちゃった」

「ほんまのケンカか思て、ハラハラしたよ。んで?休みの件とは?」

「タカちゃんに連休ができるように働きかけて、って頼んだの。旅行行きたいの♡」

「なるほど…しかし、あの二人、上手に行って帰れるかね」

「そこはもう、二人で、ね」

「んー…」

 高石はポリポリと頭を掻き美月の肩を抱いて

「ミーちゃん、万が一にさ、その…千早が暴走したらどないすんの?」

と聞けば、頬を染めかけた美月は眉を吊り上げた。

「え、そんな危ない人なの?」

「んー、そもそも、アイツはチカちゃん目当てでムラタに来てるからさぁ、いや、わからんよ」

「なにそれ…最初から狙ってたってこと?早く言ってよ、やだ…私たちも付いていこうか…タカちゃんも休みよね、現地で合流することにしよう、それがいいわ」

「………」


 その日は2人もデートの予定だったはず、せっかくの休みを千早に献上せねばならなくなった高石は静かに奥歯を鳴らした。





 それぞれが帰宅してから、美月は4人でメッセージアプリのグループを作成し、淡路島には自分と高石も参加することをそこで伝えた。

 知佳は素直に喜びを、千早は「ほい」と返事だけ、高石に至っては涙マークだけを返信した。


 そして千早は美月へ個別で

『話が違う、詐欺さぎや』

と送るも、『ごめんね』と書かれた動物のスタンプひとつでいなされてしまった。


「くそっ…騙された…あの女…」

スマートフォンを布団へ投げた千早はギリギリと奥歯を噛んでは「あんなに緊張して誘わなくても良かったではないか」と悔しがる。


 一方で知佳も美月ヘ

『どういうことー?あのセッティングなにー???』

と個別で送っていた。

『ごめんね、デートしちゃえば何か見えるのかなって思って♡千早さんも嫌な顔してなかったし、楽しそうじゃない。あたしたちも同行するし、お洒落して行こうね♡』

「……くあー!もう…これだからモテる女は…話が弾まなかったら道中どうすんの……はー…」


 千早に不愉快な思いをさせないように気をつけなければ…知佳の自己評価はただいまドン底、鞄の底のミカンを拾い睨みつけてから冷蔵庫へ収める。

「誘ってくれたから…少なくとも嫌ではないってことよな…どうかな…あー…」


 とにもかくにも淡路島、それぞれの心の準備が始まった。



つづく
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