74 / 85
9月(最終章)
73
しおりを挟む「チカちゃん、あんたが卑屈な理由がよう分かったわ。あないダメ出しされ続けりゃそら自己評価も低なるわな…もう会わせたないよ。どうしても会うなら俺も同伴してやないとさせへん。せっかく可愛がって自信持ち始めてんのに、あんな貶されたら元通りや。あかんわ、チカちゃんがダメになる」
「あ、うん、聞き流すようにはしてるんですけど…しんどい時とかは結構…はは…」
「親やから育ててくれた恩はあるやろうけどな……仕送りとかが要るなら俺も出すし……な、本音はもう二度と会わせたないくらいやけど…そうもいかんやろうしね」
せめてどちらかが「縁を切る!」などと騒いでくれれば堂々と連絡先を消せるのに、腐っても生みの親だしたかだか恋人の自分が口を挟むには限界がある。
「うん…お金は、困ってないの。色々手広くやってるらしいから……ふー………なんだろ…なんか…軽くなった気がするな、………ありがとう、千早さん」
「諒介な。ちゃんと呼んでくれ」
「諒介、さん」
「ふふ…ほんまは…だいぶん腹立ってんぞ、人様の母ちゃんやけど…自分の女があない言われ方してんのほんまに…松井くんの数倍や、腸煮え繰り返ったよ」
「ごめんなさい、だから…会わせたくなかった…」
自分が言われる分には慣れている、けれど千早が代わりに怒ってくれるのが分かっていたので来させたくなかったのだ。
「けど義理は通したな、こっちには何の非もあれへん……チカちゃんはさ、俺とこのまま話が進んだら親はどうするつもりやってんな、全く会わさずに結婚するつもりやった?」
「……母は外面は良いので、千早さんのご両親の前では問題無いと思いました。なので両家顔合わせに呼んで…挙式するならそれも問題無く出てくれるだろうと…事後承諾で固めようと思ってました」
「ふーん…よう分かってんのな…けど言い返したりはでけへんのか」
その外面の良いらしい母も自分には高圧的だった、若輩だからと舐められるのはまだ分かるが見た目の印象などから低所得労働者と思われたのなら失礼な話である。
自分に被害が及ぶ前に止めて欲しかったな、なんて傷心の知佳に訴えるのは酷なのかもしれない…千早は少々ふて腐れて口を尖らせた。
「…私ね、父親似なんですよ。母とは似てなかったでしょう?それも気に入らないみたいで…嫌いじゃなくて…産んだ義務で社会人になるまで育ててくれたんですよ。愛情とかじゃなくて、仕事感覚…っていうのかな…明言されたことはないですけど、そういうことかなーって…最近やっと思えるようになって」
「うん…不仲でも世間体のために夫婦を続けはったんやな」
「そんな感じです…割り切った…ルームメイトみたいな…あ、あの、虐待とかは無いんです、冷たくされたとかも無いんです、頼めば何だってしてくれたし遊んでくれて…でもどこか事務的で…分かってたから私も顔色を窺うようになっちゃって…そしたらオドオドしてるのがイラつくみたいで…成人したらそれが加速して…離婚したらもうあんな感じ…嫌な思い出とかは無いんです、でも疲れちゃう…あの、悪い人じゃないんです…」
「うん、チカちゃんの母親やもんな、さっぱりして自立した女性やねんな」
「はい…」
生産責任を果たしたので後はお好きにということなのだろう、誰が悪いということも無い。
ただ知佳母は子を慈しむという観念が備わってなかったというだけ…そんなドライな母親が良いという子も居るだろうから相性もあるのだろう。
「チカちゃん、前も言うたけど、欲しかったらいつでも俺の名字あげるから。『千早チカ』って胸張って名乗ってええから……あの…うん、まぁボチボチ考えよか…」
「諒介さんでも恥ずかしがることってあるんだ」
「俺を何やと思って…チカちゃん、本気やから、な、」
「うん、嬉しい……早く帰りましょう…」
目を細めればひと筋涙がつうっと頬を伝って、天辺より西に少し傾いた太陽に照らされきらりと光るのが美しくて、
「え、あ、もーチカちゃん…よしよし…」
と頭を撫でてキスをしてと千早は車内でできる範囲の最大の甘やかしで知佳を慰めた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説



とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる