自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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9月(最終章)

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「チカちゃん、あんたが卑屈な理由がよう分かったわ。あないダメ出しされ続けりゃそら自己評価も低なるわな…もう会わせたないよ。どうしても会うなら俺も同伴してやないとさせへん。せっかく可愛がって自信持ち始めてんのに、あんなけなされたら元通りや。あかんわ、チカちゃんがダメになる」

「あ、うん、聞き流すようにはしてるんですけど…しんどい時とかは結構…はは…」

「親やから育ててくれた恩はあるやろうけどな……仕送りとかが要るなら俺も出すし……な、本音はもう二度と会わせたないくらいやけど…そうもいかんやろうしね」

せめてどちらかが「縁を切る!」などと騒いでくれれば堂々と連絡先を消せるのに、腐っても生みの親だしたかだか恋人の自分が口を挟むには限界がある。

「うん…お金は、困ってないの。色々手広くやってるらしいから……ふー………なんだろ…なんか…軽くなった気がするな、………ありがとう、千早さん」

「諒介な。ちゃんと呼んでくれ」

「諒介、さん」

「ふふ…ほんまは…だいぶん腹立ってんぞ、人様の母ちゃんやけど…自分の女があない言われ方してんのほんまに…松井くんの数倍や、ハラワタ煮え繰り返ったよ」

「ごめんなさい、だから…会わせたくなかった…」

自分が言われる分には慣れている、けれど千早が代わりに怒ってくれるのが分かっていたので来させたくなかったのだ。

「けど義理は通したな、こっちには何の非もあれへん……チカちゃんはさ、俺とこのまま話が進んだら親はどうするつもりやってんな、全く会わさずに結婚するつもりやった?」

「……母は外面は良いので、千早さんのご両親の前では問題無いと思いました。なので両家顔合わせに呼んで…挙式するならそれも問題無く出てくれるだろうと…事後承諾で固めようと思ってました」

「ふーん…よう分かってんのな…けど言い返したりはでけへんのか」

その外面の良いらしい母も自分には高圧的だった、若輩だからと舐められるのはまだ分かるが見た目の印象などから低所得労働者と思われたのなら失礼な話である。

 自分に被害が及ぶ前に止めて欲しかったな、なんて傷心の知佳に訴えるのは酷なのかもしれない…千早は少々ふて腐れて口を尖らせた。


「…私ね、父親似なんですよ。母とは似てなかったでしょう?それも気に入らないみたいで…嫌いじゃなくて…産んだ義務で社会人になるまで育ててくれたんですよ。愛情とかじゃなくて、仕事感覚…っていうのかな…明言されたことはないですけど、そういうことかなーって…最近やっと思えるようになって」

「うん…不仲でも世間体のために夫婦を続けはったんやな」

「そんな感じです…割り切った…ルームメイトみたいな…あ、あの、虐待とかは無いんです、冷たくされたとかも無いんです、頼めば何だってしてくれたし遊んでくれて…でもどこか事務的で…分かってたから私も顔色を窺うようになっちゃって…そしたらオドオドしてるのがイラつくみたいで…成人したらそれが加速して…離婚したらもうあんな感じ…嫌な思い出とかは無いんです、でも疲れちゃう…あの、悪い人じゃないんです…」

「うん、チカちゃんの母親やもんな、さっぱりして自立した女性やねんな」

「はい…」

 生産責任を果たしたので後はお好きにということなのだろう、誰が悪いということも無い。

 ただ知佳母は子を慈しむという観念が備わってなかったというだけ…そんなドライな母親が良いという子も居るだろうから相性もあるのだろう。

「チカちゃん、前も言うたけど、欲しかったらいつでも俺の名字あげるから。『千早チカ』って胸張って名乗ってええから……あの…うん、まぁボチボチ考えよか…」

「諒介さんでも恥ずかしがることってあるんだ」

「俺を何やと思って…チカちゃん、本気やから、な、」

「うん、嬉しい……早く帰りましょう…」


 目を細めればひと筋涙がつうっと頬を伝って、天辺てっぺんより西に少し傾いた太陽に照らされきらりと光るのが美しくて、

「え、あ、もーチカちゃん…よしよし…」

と頭を撫でてキスをしてと千早は車内でできる範囲の最大の甘やかしで知佳を慰めた。
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