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7月
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しおりを挟む紐で縛られた束を室内へ持って入り、千早はそれを解いて小中高と順番に開いていく。
「何組?」
「…4組」
「あー、これな、うん…素朴♡」
「……」
「次、中学…何組?」
「…2組」
「ふんふん……おー、今の顔に近付いてきたねぇ……次、高校…何組?」
「6組…」
「えーと……おー、もうチカちゃんやな…可愛い」
「リアクションに困る」
化粧をしてない無垢な顔、それは現在とそう変わりはないけれどおおよそ十年若い自分を見られ褒められるのはなかなかに恥ずかしくむず痒かった。
「大学のは?」
「これ…」
「おー、私服や……ええなぁ…」
千早はそれぞれの顔写真をまじまじと見比べては目線を泳がせて少し黙り、
「…なぁ、やっぱりチカちゃんの…お母さんにもさ、いっぺん挨拶行かへん?」
と僅かに困り顔で告げる。
「………なんで?」
知佳は案の定もっと困り顔で、口をへの字に曲げてアルバムを閉じて箱に仕舞い始めた。
「なんでて…ゆくゆくは結婚とかするやろし」
「あんまり…んー…」
「会いたない?」
彼女の両親は彼女がムラタへ入社する直前に離婚、以降母親は交際相手と住んでいるので故郷に帰りたいとか思わないと、そこまでは千早も聞いて知っている。
なんとなく察するに奔放で不干渉な親なのか、素っ気なくて冷たいのか。
そして卒業アルバムをほいと捨ててしまえる感性はその母譲りなのではという気がして…面倒は面倒だが早めに区切りを付けた方が良いのではと千早は再びそんな提案をしたのだ。
「そう…ですね……なんでしょう…私は良いんですけど、千早さんに失礼があったら申し訳なくて…嫌なんです」
「しやけど、話がまとまってから『結婚は許さん』とかケチがついたら嫌やから…早めに言うてさ、あとは好きにしますわー言うて…したらどう」
世間的に言う『毒親』とすれば娘がいざ離れて行く時に所有権を主張されるかもしれない。
放任でも人に盗られるのは嫌だとゴネる親も居るらしい。
成人しているのだから婚姻は自由だけれど後々干渉が始まって新婚生活に暗い影を落とされても癪、彼女をしがらみから解放できるなら早い方が良い。
いつになく真剣で優しい千早の眼差しに知佳も渋々同意を示し出す。
「んー………んー……9月、に…連休が取れるのでその時に…しましょうか…」
「うん、また教えてな、同じ日に休み入れてもらうわ」
「そちらの…千早家にも…ご挨拶に行きたいです」
「うん、うん…」
浮かない顔を見ないよう前髪に頬をくっ付けて、千早はふるふると震える身体を抱き締めてぽんぽんと背中を叩いて宥めた。
そして
「それさ、雨ざらしにせんと室内に取っとき。チカちゃんの歴史やんか。ベッドの下でもどこでもええ、置いといてさ…将来、自分の子供とかに見してやりたいやん」
と顔を離して涙目で笑う。
「なんで、千早さんが泣くの」
「泣いてへんよ」
「そう」
「教えて、チカちゃん、どんなお母さんやの」
「んー……事務的……な、感じ…」
「うん…しんどい?」
「……嫌いじゃないんです、でも会おうとするとエネルギー消費が酷くって…次の日頭痛がしたり熱が出たり……相性が悪いのかも…しれませんね、お互いに」
「ん…親子といえどもな、んなこともあるわな…ちなみに話が出てけぇへんけどお父さんは?」
「あー……物心ついた時から家に居りませんで…ずっと別で家庭があったんじゃないかと…詳しくは聞かされてないです。正直、記憶も曖昧で…好きも嫌いもないです。母の会社の秘書みたいな人が父親代わりに懇談に出てくれたり…ふふ、私、結構…薄情でしょう?」
「まぁ…ちょっと意外やな」
「……千早さんの…ご両親は?」
「うちとこはまんま大阪のオトンオカンって感じよ、よお喋るしよお笑って泣く。チカちゃんは圧倒されるかも分からんな」
「……頑張ります」
この話はこれっきり、意識的に話題に出さぬまま夏は盛りを迎えた。
つづく
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