自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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5月

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 それからさらに数日経ち千早が商品管理室を訪れなくなり、生理前のモヤモヤもあるのか知佳としても過去最高くらいに自己評価が地を這った。

 視線も下を向き、人に話しかけられても今ひとつ愛想ができなくなってしまう。

「(ダメだ…また前の自分に戻っちゃう…)」

 しかめっ面でキーボードを叩いて顧客情報を睨んでいると、

「チカちゃん、眉間みけんにシワ寄ってんで」

渇望かつぼうしていた恋人の声がした。


「あ、千早さん!」

 立ち上がればコロ付きのパソコンチェアーが走って反対側のデスクへと突撃して音が鳴り止まる。

 うわぁと確認してから千早へ視線を返せば、涙袋を浮かせてひひと笑うその顔がやはり知佳の萌えスイッチを押してじゅんと心が潤うのが分かった。

「なに、そない驚いた?」

「い、いえ…あの…久しぶりで…」

「あー、せやね。他の所に借り出されててん、言うてへんかった。ごめんね」

「あ、そうですか…」

 夜の連絡でも聞こうと思えば聞けたのに、「お前と距離取ってんねん、分かるやろ」と言われるのが怖くて聞けていなかったのだ。

「なに、俺に会えてそない嬉しい?」

まるで尻尾を振ってよだれを垂らす犬、千早はニタニタとどこまでも知佳好みの顔で笑う。

「嬉しい…んです…あの…お忙しいのかと思って…」

「うん、確かに忙しい…なに、寂しかった?」

「はい」

 照れてはぐらかすと思いきや真っ直ぐ見つめてそう言うもんだから、千早も驚いて

「なんや、素直やん……メシでも行く?」

と誘ってくれた。

 知佳はむずむずとつぐんだ唇を震わせて、千早の立つ窓の前へ移動しロビーからは見えない位置で自身の体を指差す。

「……」

「ん?」

 そして

「…新しい下着、買ったんです…み、見てくれませんか?」

と精一杯の誘惑をしてみた。

「……」

「……」

「…チカちゃん」

「ごめんなさい、やっぱりいいです」

 失敗した、私ごときの誘いなどサプライズのご褒美にもならないんだ。

 ちびちびと上がって来ていた自信がまた振り出しへ…知佳はぶわぁと赤面し、まばたきを忘れて余計に涙が膜を張る。

 今にも涙をこぼしそうな彼女を前に呆気にとられた千早は周囲を気にしながら、

「ちゃう、気が動転してもうたんよ、チカちゃんから誘ってくれるなんて珍しいから。しかもここ職場で」

と普段より声を潜めて弁解した。

「わ、私なんかの誘いで興奮されないかもしれないんですけど、ご無沙汰なので…千早さん…」

「分かった、もう言うな。勃ってまう……どこがええんや?チカちゃんか?それともホテルか?」

「……」

 抱かれたいくせに今更恥ずかしがって、千早が仰け反って

「どっちや、あ?」

と偉そうに問えば

「…ほて、る、」

と蚊の鳴くような声で応える。

「ん、ほな……チカちゃん家の駐車場集合な、しっかり…可愛くして来ぃや」

「…」

「…返事は」

「はい、」

「ん、ええ子やな。ほなね」

 千早は去り際にも周囲を警戒して、でも手を伸ばして知佳のバストトップをちょいと人差し指で突いてロビーへと戻って行く。

「わ」

 心が内側から彩りを取り戻してそこから全身にパワーがみなぎる感じ…顔に胸にそしてソコに、血が巡って熱くなって、生きていると実感できた。

 慌てて胸を押さえた知佳はロビーへ背を向け脈が正常に戻るのを待ち、デスクに戻り途中だった伝票の束を表へ返し入力を再開する。


「はぁ………言っちゃった…早く片付けよ…ふー…」

避けられている訳ではなかった、それが分かっただけでも良かった。

 そしてさらに千早との逢瀬が待っている…知佳のタイプスピードはここ一番の速さで、しかし入力ミスが多くて結局入力枚数は振るわなかった。
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