自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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4月

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 そう、棚卸しお疲れ会にハロウィンを付随させたのは幹事の松井だが彼が参加者に伝えたのは「簡易的な」仮装であり、それをどうしようか相談したのが美月みつき、団体芸として揃えようとギャル案を出したのが高石であった。

 酔った美月とそれに乗じた高石が試作ギャル写真を撮って「こんな感じで」とグループに回し、それに合わせた結果全員がフルパワーで仕上げて登場し…そのあまりの出来栄えに当日「え?」と一番驚いたのは松井であったという。


「ふーん…チカちゃん、何べんも聞いてて明確な答えが返ってけえへんのやけどさぁ、なんで松井くんは恋愛対象になれへんの?」

「え、会社の異性はそういう目で見なきゃいけないんですか?」

「ちゃうよ、前に『松井さんは絶対ない』って言い切ったやん。それなりの理由があるんやろ、何がアカンの?教えてぇな」

もちろん千早だって店内全ての異性が知佳を好いているなんて思ってはいない。

 しかし一番身近な存在でありながら恋仲に発展しないと断言できる、その理由が気になってしょうがない。

 例えば決定的に性格が合わないのか、だとしたら美味い飯に釣られたからといっても松井会へは参加しないだろう。

 では松井の好みから知佳が大きく外れているのか。

 あるいは彼は女性を性対象としないのか、しかし昨年「彼女ができた」とかいうトピックを千早は耳にした覚えがある。

 千早が最も懸念しているのはやはり「もう既に合わないことを知っているから」ということ、つまりは2人が元カップルだったという説。


 『…いっつも、そうやってアイツのこと庇うやんか…やっぱり付き合うてたんやろ』

 『はぁ?………はぁ、もー……だったらなんなんじゃろー…』


こんな会話をしたのは1月のことだった。

 たびたび浮上する松井の影に妬いた千早がカマをかけたら知佳は応戦した。

 彼女は仲直り後に「あれは方便です」と訂正してくれたがどうもふに落ちなかったのだ。

「んー…なんだろ…会話…んー…んー……そうだな…」

 知佳はだいぶん険しい顔をして考え込み、

「あ、松井さんが買った商品が入荷したら届ける用事があるんですけど、その時一緒に来ますか?」

と思わぬ誘いをかけた。

「なんでわざわざ?」

「謹慎はとりあえず明日1日ですけど、延長もあり得るそうで…そのまま転勤とか決まっちゃうと受け取りに来れないかもしれないので、頼まれたんです」

「…行く…俺がこの話題を出さへんかったら黙って行ってたってことか」

「行きますよ、届ける代わりにご飯用意してくれるって仰るんですもん。美味しいご飯食べたいですもん」

「あ、そう…うん…ほなら俺も行くわ…ちょっとでもイチャつきよったらその場で犯すからな」

「うわ」

 窓を閉めてホールへ戻る千早の背中を知佳は困り顔で見つめ、松井へ『千早さんも一緒に来たいそうです』と連絡してからタイムカードを押す。


「……何にも無いのに」

 松井との間にあるのは仕事上の師弟関係だけ、彼はいい人だが恋愛の対象になるような男らしい魅力を感じない。

 自分が彼のことをそんな風に評するなんて図々しいことはなはだしい、

「そんな身分じゃないし」

ポツリそう呟いて、知佳は部屋を出た。
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