25 / 85
3月
24
しおりを挟むそしてさらに数日後の夕方。
配送センター前のロビーでは憮然としたモリシタがウチシバ陣営の輪で翌日分の配送伝票を区分けしていた。
同刻に帰着した千早たちはその物々しい様子に驚いたが、高石が
「おぅ、モルちゃん……どないしてん、その顔」
と尋ねれば、その頬に引っ掻き傷と思われる縞々を拵えたモリシタは力なく笑う。
「嫁にな…向こうで遊んできたのがバレたんや」
「はぁ、なんで?」
「ビョーキ貰ってん…嫁にもうつってもうて…しばらくエッチできひんし小遣い献上よ、敵わんな」
「はぁ……そら…お大事にな」
高石はお見舞い申し上げて定位置へ戻り、
「だ、そうよ、千早くん」
と目配せすると千早は
「フン…不真面目のツケやん……嫁さんは可哀想にな、」
と苦虫を噛み潰した様な顔で吐き捨てた。
結婚したい相手とセックスの趣向が合わなかったのは気の毒だ。
既婚者でも風俗店を利用する事は問題ない様に思われる、しかしそこはやはり気持ちの問題だ。
そもそも合わないなら結婚しなければ良いのでは?と千早は考えるのである。
・
「…ってな、小遣いカットやねんて。…嫁さんと夜の趣味合えへんなら結婚しやんかったらええのにな、チカちゃんはどう思う?」
「え、」
場と時間にそぐわない話題、いつもの鍋屋での夕食デートで知佳は言葉に詰まる。
「んー…私は我慢しちゃいますね。夜の方が満足できなくても、優しかったり一緒に居て楽しかったりするなら」
「そう…」
「千早さんは?私と…その、夜の相性が合わなかったら…お付き合いをやめてますか?」
「……」
「あ、言わなくていいです」
てっきり秒速で「んなことあれへん」などと言ってもらえるかと思ったが見込み違い、知佳は慌てて質問を撤回した。
そうすると合っているという前提が間違っていた?図星を突いてしまった?彼は満足できていない?千早とぴったり合っていると思っていた自分の勘違いに俯いてしまう。
「あ、チカちゃんちゃうねん…相性はええのよ、かつてないくらい。でもせやな…人のことやんや言いながら考えたこと無かってんな……チカちゃんがエッチ嫌いやったら物足らへんかったんかどうか…前も言うたけど、それを崩すのもおもろいと思うねんな」
「うん、」
「大人しい子が俺の前だけエロエロになんの、優越感あるやん。まぁその…全くエッチしたくないってタイプやと…別れてたかも分からんね。やっぱりシたいから」
「ほー」
「チカちゃんと俺は合うてると思うよ、体もな♡あ、あかんコーフンしてきた」
「やだ、」
照れ隠しにポン酢を追加しようと伸ばした手を掴み取られ、知佳は肩を竦めて唇を噛んだ。
「チカちゃんは、もし俺が全く手ぇ出さへんタイプの男やったらどうしてた?」
「え、えー…」
知佳は掴まれた手をするりと抜いてポン酢を注ぎ足し、
「千早さんは…色っぽい印象が最初から強かったから…エッチな人だと思ってました」
と目線を逸らす。
クイと上がる口角、薄くよく動く唇、骨張った手と首筋、ギョロギョロと揺れる瞳。
彼女はそういったポイントにエロティックな男の色気を感じていたのを思い出した。
「ワシ、そんなにエロさ出てた?」
「違う、色っぽいの、……もうやめましょう、こんな話」
「うん、チカちゃん…相性ってほんま大事やな、」
「…はい、」
邪魔の居ない個室の中、千早は再度知佳の手を握り隣へ座り直し…彼女を壁へ押さえ付けて口付ける。
逃げないのだから意向は合致しているのだ、何度も何度も、千早は可愛らしい彼女の八重歯を舐っては
「酸っぱいね」
と囁いて知佳を困り顔にさせた。
つづく
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)
しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。
良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。
人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ?
時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。
ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。
気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。
一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。
他作品で出ているサブキャラのお話。
こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。
このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)?
完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる