自己評価低めの彼女は俺の自信を爆上げしてくれる。

茜琉ぴーたん

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3月

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 そしてさらに数日後の夕方。

 配送センター前のロビーでは憮然としたモリシタがウチシバ陣営の輪で翌日分の配送伝票を区分けしていた。

 同刻に帰着した千早たちはその物々しい様子に驚いたが、高石が

「おぅ、モルちゃん……どないしてん、その顔」

と尋ねれば、その頬に引っ掻き傷と思われる縞々を拵えたモリシタは力なく笑う。

「嫁にな…向こうで遊んできたのがバレたんや」

「はぁ、なんで?」

「ビョーキ貰ってん…嫁にもうつってもうて…しばらくエッチできひんし小遣い献上よ、敵わんな」

「はぁ……そら…お大事にな」


 高石はお見舞い申し上げて定位置へ戻り、

「だ、そうよ、千早くん」

と目配せすると千早は

「フン…不真面目のツケやん……嫁さんは可哀想にな、」

と苦虫を噛み潰した様な顔で吐き捨てた。

 結婚したい相手とセックスの趣向が合わなかったのは気の毒だ。

 既婚者でも風俗店を利用する事は問題ない様に思われる、しかしそこはやはり気持ちの問題だ。

 そもそも合わないなら結婚しなければ良いのでは?と千早は考えるのである。





「…ってな、小遣いカットやねんて。…嫁さんと夜の趣味合えへんなら結婚しやんかったらええのにな、チカちゃんはどう思う?」

「え、」

場と時間にそぐわない話題、いつもの鍋屋での夕食デートで知佳は言葉に詰まる。

「んー…私は我慢しちゃいますね。夜の方が満足できなくても、優しかったり一緒に居て楽しかったりするなら」

「そう…」

「千早さんは?私と…その、夜の相性が合わなかったら…お付き合いをやめてますか?」

「……」

「あ、言わなくていいです」

てっきり秒速で「んなことあれへん」などと言ってもらえるかと思ったが見込み違い、知佳は慌てて質問を撤回した。

 そうすると合っているという前提が間違っていた?図星を突いてしまった?彼は満足できていない?千早とぴったり合っていると思っていた自分の勘違いにうつむいてしまう。

「あ、チカちゃんちゃうねん…相性はええのよ、かつてないくらい。でもせやな…人のことやんや言いながら考えたこと無かってんな……チカちゃんがエッチ嫌いやったら物足らへんかったんかどうか…前も言うたけど、それを崩すのもおもろいと思うねんな」

「うん、」

「大人しい子が俺の前だけエロエロになんの、優越感あるやん。まぁその…全くエッチしたくないってタイプやと…別れてたかも分からんね。やっぱりシたいから」

「ほー」

「チカちゃんと俺は合うてると思うよ、体もな♡あ、あかんコーフンしてきた」

「やだ、」

照れ隠しにポン酢を追加しようと伸ばした手を掴み取られ、知佳は肩をすくめて唇を噛んだ。

「チカちゃんは、もし俺が全く手ぇ出さへんタイプの男やったらどうしてた?」

「え、えー…」

 知佳は掴まれた手をするりと抜いてポン酢を注ぎ足し、

「千早さんは…色っぽい印象が最初から強かったから…エッチな人だと思ってました」

と目線を逸らす。

 クイと上がる口角、薄くよく動く唇、骨張った手と首筋、ギョロギョロと揺れる瞳。

 彼女はそういったポイントにエロティックな男の色気を感じていたのを思い出した。

「ワシ、そんなにエロさ出てた?」

「違う、色っぽいの、……もうやめましょう、こんな話」

「うん、チカちゃん…相性ってほんま大事やな、」

「…はい、」


 邪魔の居ない個室の中、千早は再度知佳の手を握り隣へ座り直し…彼女を壁へ押さえ付けて口付ける。

 逃げないのだから意向は合致しているのだ、何度も何度も、千早は可愛らしい彼女の八重歯をねぶっては

「酸っぱいね」

と囁いて知佳を困り顔にさせた。



つづく
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