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3月

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「楽しかったよ、男ばっかりやし。カジノでちょいと金増やして、あと遊んだな、」

「遊んだ?」

「コレ、うん」

モリシタは左手でフィグ・サインを作って高石に見せ、サッと隠して大型テレビを受け取る。

「はぁ、そういうこと。そらお楽しみやったね」

「うん、言葉は通じひんけどね、そこそこ良かったわ。要らん気ぃ遣わんし。…よいしょ、」

「……」

 海外で女を買う、なるほどそういう愉しみをしてきたのか…それ自体は別段問題ではないし自身も風俗は利用した事はあるし、責められたものではない。

 しかし商品を荷台へ押し上げながら、当然会話を聴いていた千早は不快感をその額へ表してしまう。

 モリシタが丸めた指の内、薬指にはプラチナの指輪がはまって輝いているのだ。

 彼はまだ新婚と呼べる期間の所帯持ち、パートナーでは満足しきれないのか開放的になったのか海の向こうで性欲を発散してきたらしい。

 他人がどうこう言える事ではないが一般的にそれは夫としては「不真面目」な行動にあたる。

 そんな男が自分の恋人・知佳に馴れ馴れしく接することが千早は腹立たしかった。

「タカちゃん、これで最後、」

「うん、よいしょぉ………おし、ほなモルちゃん、またね」

「おう、またな」


 明日の配送はウツミの中型のトラック2台に対してモリシタ所属のウチシバ運輸は大型が3台、配送の件数は配送業者のパワーも表している。

 まだ積み込み終わらないモリシタたちを背に、千早は配送センターに挨拶をして車に乗り込み事務所へと戻った。


「アイツ…嫌やわ…モリシタ」

「モルちゃん?うん……去年結婚したばっかりやのにな、」

「女という女に声かけてんのが腹立つわ…不埒ふらちやで」

運転席の高石へ目線もくれず、助手席の千早は配送伝票を載せた膝を揺すって落ち着かない。

「さすがにチカちゃんには手ぇ出さへんやろ、元請けやし」

「分からんぞ…前にもウチシバの奴が『北欧料理の店ができた』言うてチカちゃんに声掛けてんねん、スルーされてザマァやけどな…不真面目社員ばっか集めやがってからに」

「はぁ、誘われてんのか…スルーもさすがやな」


 それは1月のこと、ここ最近垢抜けて話しやすくなった知佳に声を掛けるスタッフが増えた頃のこと。

 ウチシバ陣営のひとりが彼女へそのようなデートの誘いにもとれることを雑談の中に潜ませていたのだ。

 鈍感不思議ちゃんな知佳に汲み取ってもらえなかったのは千早にとっては幸いだったが、以来特に一味の動きは注視している。

「フーゾクは別にええよ、でも嫁さんおるんなら…アカンやろ」

「同感や、でも外野はどうも言われへん。チカちゃんに聞き取りするしかないやろな、ほんまに誘うつもりやったかは分からんしなー…モルちゃんここ最近えらいえたよな、幸せ太りやろ。そこそこ楽しいんやろうけど」

「アカン…うん…」

その後千早は事務所に着くまでブツブツと文句を垂れていた。
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