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3月

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 午後。

「まぁ見てて分かると思うんですけど、私、結構怠惰たいだなんですよ、ダルがり、」

昼食の炒飯と袋ラーメンを用意しながら、知佳は自虐気味に自身の生活様式をバラした。

「なんとなく分かるわ」

「はい、なので、几帳面じゃないとことか見ても指摘しないでください。ちょっとその…散らかってたりしても、許してくれると有り難いです」

「俺もそないキレイ好きとちゃうから…その辺は大丈夫よ」

そんなことは初めてこの部屋に入ったとき以来倒れっぱなしの本を見ても明らか、千早はハイハイと受け入れる。

 冷凍炒飯に白飯を加えて嵩増ししたり、袋麺のパッケージのベルマークを丁寧に切り取ったり、庶民的で気取らない彼女の雰囲気が好みなのだ。

「衛生観念とか…その辺りが似通ってると助かりますね」

「人ん家来て汚れとか指摘せぇへんよ、部屋の評価まで低いの?」

「イライラするでしょ、卑屈で」

「ほんなら奮起してオシャレ部屋にでもしたらどやの」

「実用性重視、」

 そう言って堂々とダブルピースを作る知佳が可愛くて、千早は「ふは」と吹き出して眉尻を下げ笑った。


「あと千早さん、これはできればなんですけどね、タバコ…必要だとは思うんですけど、量は減らせますか?」

「エ」

「ベランダで吸う分には構わないんですけど、その…千早さんのお布団、煙臭くて…あんまりでした」

「そう?臭い?」

「千早さん自体はそう…いや、気にはなるんですけど、たまにせそうになるんです。あまり耐性が無くて…具体的に何本っていうのは分かんないんですけど…健康にも悪いですし、減らしてくれると…嬉しいです。キスも…しやすいです」

「応相談やねぇ」

鍋から上がる湯気越しの知佳へ生返事を返し、千早は頭を掻いてテレビへ顔を向ける。


 二十歳を過ぎてから格好つけるために手を出した煙草。

 当時はメンツのために吸っていたが今ではすっかり習慣化して1日にひと箱半は開けてしまうのだ。

 知佳の部屋に居る時は控えめだが、なんとなく口寂しいとか持て余している時にとりあえず咥えてしまう。

 そこを止めれば本数はだいぶん減るはずであろうが容易ではない。


「やっぱり、吸えないとイライラしちゃいますか?」

「せやね…段階的に、やったらええかな」

「はい…すみません、個人の嗜好品を制限するなんて出過ぎた真似だとは思うんですけど…長生きしていただきたいので」

「ん?ジジイになっても一緒にいてくれんの?」

「あ、すみません…そこまでの仲ではなかっ…いえ、嫁にとか仰るから…」

「すまん、聞き返しただけや。もっぺん言うて」

「歳を取っても…一緒にいたいと…思っ……い、たくないですか?」

「いたいよ、年寄りになっても…どうでもええこと駄弁だべったりしてたいわ。な、」

湯気の向こうで微笑む知佳のぼんやりした姿にこの先の未来を見た、千早は減煙の決意をとっとと決めてしまった。



「ハムを載せてネギを散らすだけでもいい感じになりますね」

「せやね、美味い…」

 まずは本数を減らすところから。

 しかし出来合いに恋人が手を加えた炒飯とラーメン、これを平らげて喫む1本は至福だろうと…千早の決意は早速ぐらぐらと揺れるのである。
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